4月15日-6
間に合いました。
目の前にはいまだユラユラと立っている『ダレカ』が居る。
命すら曖昧な状態になっているらしい。
「山上!! おまえなんてこと!!」
と掴みかかってくる。
その表情は泣きと怒りが混ざったような複雑な表情だ。
「あのままだと、連れていかれたと思う、そして橘も取り込まれて『ダレカ』になっているぞ」
「そ、それは……」
気勢がそれたように押し黙った。
すると『ダレカ』から声が聞こえる。
「――んで」
疑問に思い耳を澄ませる。
「なんで、こんなことになったの、なんでもっと早く助けてくれなかったの」
蚊の鳴くような声だ、もう誰の声なのか微かにしか思い出せない。
「なんで謝ってくれなかったの」
「それは――」
言おうとした言葉を泣くような叫びでかき消された。
「謝ってくれないと、許せない」
「あ」
そこで気づいた。
「ずっと恨んでいるしかないじゃない」
謝られるということは心の整理をつけるタイミングでもあるのだ。
理由はどうであれ、俺は相手に恨むことをやめるタイミングを逃させてしまった。
「それでも――」
言葉に詰まってしまう。
だから――
「そんなになるまで遅くなってすまなかった」
「ああ、うん」
抑揚がなく風が吹いただけでかき消されそうなほどかすかな声で――
「ありがとう、橘くん も」
「まて、待ってくれ――[ ]!!」
不自然な空白ができて、溶けて崩れるその瞬間。
「ようやくね」
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『ダレカ』の首が刈りとられた。
「え?」
呆然とその様子をてしまう。
大型の鎌を持ったその人影は細部が認識できない。
暗闇で強烈な光を浴びせているように見えている。
その人物はどことなく満足げな様子で――
「それにしても苦労しただけあって純度も大きさも最高級ね」
といって手に持った『ダレカ』だった首を眺めている。
それは見る見るうちに小さくなり拳大ほどの透明な鉱石なる。
「あ、んた……」
「首から下はまぁどうでもいいのよね」
その言葉を聞いた瞬間切りかかる。
すると、何かが割り込んでくる。
「おい!! ゼニゲバ野郎、気をつけろ!!」
紅い両手剣で受けようとしているので、それごと斬った。
「あっぶな!?」
一足後ろに跳んで避けた。
それは紅い鎧を着ている。
――最初に淡雪が着ていたようなものとよく似ていることに気付く。
そこで鞘に納める。
「“ウォーモンガー”あなたこそよ」
「はっ!! “リーパー”にしんぱいされるほどじゃねぇよっと!!」
半分になった刀身でまっすぐ唐竹割をするように振ってきた。
よけるとさらに距離を取られてしまう。
だから――
「あぁ!! くっそ、でたらめな奴だな!!」
そのまままっすぐ突き進む。
大剣が当てられた衝撃こそはいるが、ほぼダメージはない。
そのまま刹那以下の時間でリーパーと呼ばれた存在に斬りかか――
「そのまま斬ったら、この子が死んじゃうわよ?」
と言って橘を盾にするように差し出してきた。
舌打ちをして後ろに跳ぶ。
「ふふ、そういう素直な子、おねーさん好きだわ」
喉の奥でくすぐるような笑い方をしている。
それに対して、紅い鎧の方は
「おれは嫌いだな、戦うと決めたんなら切り捨てやがれっての」
かんしゃく玉をはじけさせたような声だ。
「だれだ?」
今更の問いかけをする。
なぜだか淡雪との連絡は切られている。
橘はこわばり動くことができていない。
「ああ、なるほど、迷彩掛けたままですものね」
とリーパーは迷彩を解いた。
青色がかった銀髪をくるぶし付近まで伸ばし、青を基本したケープの下はシンプルな白いワンピースだ。
各所には落ち着いたデザインの銀の装飾品をつけて、軽く垂れ目の瞳は髪と同色の銀色をしている。
年はおそらく大学生くらいだろう。
花のようにしなやかな立ち姿は目を引くほど整っている。
それだけならば良家のご令嬢だろう。
が手に持った牛の首でも落とせそうなほど巨大な鎌が全く違う印象を与える。
「死神、か?」
「くす、そう見えるなら――」
瞬間、目の前に居た。
「そうよ」
鎌の柄尻で押されるように突かれた。
大して力をかけているように見えないのに弾き飛ばされた。
「“ウォーモンガー”、あなたの専門でしょう?」
「わぁってるよ!!」
ウォーモンガーはいつの間にか直っていた大剣の切っ先をこちらに向けて。
「喰らえ!!」
一拍の溜めの後に白く輝くビームを発射してきた。
「やったか!?」
「“ウォーモンガー”、こちらがフラグを立ててどうすのかしら?」
「なーにをいって、ってはぁ!?」
攻撃を受けながら歩いて近づく。
視界に映る各種の数値は安全であることを示している。
「おぃおぃ、核シェルターを貫くプラズマ砲だぞ」
それ以上は無意味と悟ったのか、砲撃を納めた。
だから抜剣して斬りかかる。
「さっきはびっくりしたが――」
振り下ろす一瞬で懐に入られた。
「ま、こんなもんだ」
両手をつかまれ抑え込まれる。
「さすがに出力はこっちが上だな、防御に性能特化したみたいだな」
振り払うことができない。
相手の言うようにこちらは一点特化している。
この状況なったら千日手だ。
「おぃ!! “リーパー”!! お前の武器の方が向いてるぞ!!」
「おことわりよ、それくらい一人で何とかしなさいな」
ウォーモンガーは舌打ちをして――
「ったく!!」
そのままこちらを鯖折りをするようにこちらの腰のあたりを抱きかかえた。
「んじゃ、ちょっくら隕石の気持ちを味わおうぜ」
と元気よく、空へと飛んだ。
莫大な加速で遥か下に雲が見える高度に上がり。
そのまま地面に頭から加速していく。
「飯綱落としってな」
何とか減速しようとするが、出力差で無視をされて地面に頭から杭でも打ち込むように埋められた。
「とりあえず逃げる時間は作ったぜ」
「荒っぽいわねぇ」
よほど深く埋められたのか身動きがなかなか取れない。
埋めた相手は大して苦も無く抜けたようだ。
その隙間に移動しようとするがうまくいかない。
「それじゃあごきげんよう、楽しみしているわ」
「次は絶対ぶっ殺す」
対照的な言葉が聞こえてきた。
おそらく二人とも去ったのだろう。
苦い思いをかみしめながら抜け出すために格闘し続ける。
明日も頑張ります。




