4月15日-4
間に合いました。
ファミレスの前で橘と別れた。
しばらく話してみたところ、実家を離れる生活基盤が整い始めたそうで、本当ならもう少し後で迎えに行くつもりだったそうだが、この機会に実家へは戻さずに帰るという話だった。
ギリギリだったが何とか収まるべきところに収まった形だろう。
「よし、早速帰ろうか」
「はい」
といったところで一本の電話が入る。
相手は数日ぶりの相手針山さんだ。
「はい、こんな時間にどうしました?」
「おぉ!! 山上か、起きててよかった、かなりまずい事態が起きている」
「何があったんですか?」
そこで一瞬の間が開いて。
「もしかして、お邪魔だったか?」
「はい?」
なんのことか全くわからず聞き返す。
「いまファミレスから出てきたところですけど?」
「なるほど、健全な――と言ってもこの時間に起きている時点で不健全か、ともかく清い付き合いをしてるわけか」
そこまで言われてようやく気付く。
「針山さん?」
「なんだ?」
「言っていい冗談とわるい冗談ってありますからね」
かか。と軽く笑われて、すぐさま真剣なトーンに戻る。
「いきなりで悪いがお前らが対処してた化け物がいきなり現れ始めた」
「は!?」
二人で呆けたような声を出してしまう。
ここ数日のノスタルジストの化け物が出現する感知ができていない。
これは致命的な問題だ。
が――
「まずはそっちに向かいます」
「いや、待て」
思ったより強い言葉で止められる。
どこか絞り出すような声だ。
「出没し続けている場所は一か所じゃない、下手すると全国だ」
と、驚くべき話が出てきた。
そしてそこで気づく。
耳が早い青木さんが連絡をしてきていないのは情報が膨大で忙殺されているからだ。
針山さんはあくまで所轄の情報しか来ていないので素早く起きていることが把握できたのだ。
淡雪に向かって話しかける。
「こっちの刑事さんから話は?」
「いま来ました」
遠く離れた街なのに同じようなことが起きているというのは全国規模で起きていると考えていいだろう。
となると慌てて駆けつけて何とかできるようなものではない気がする。
何からやろうか考えていると、淡雪に着信が入る。
そして、何をやったのかこっちにも話ができるようつなげられた。
「はいはーい、しばらくぶりだねぇ、お二人さん」
「ぅぉ!! 誰だ!?」
「ん? ああ、なるほどなるほど、内調の青木ですよ、と」
「は?」
針山さんが疑問の声を上げる。
「まぁまぁ、今は緊急事態だから細かい疑問は互いに飲んではなそーね」
不承不承という様子で針山さんはうなづいた。
「さーて現状だけどかなーりヤバイ、日本全土でノスタルジストだっけ? まぁそういう化け物がポロポロ出てね」
そこでいったん言葉を切って。
「殺人事件の再現ならフル武装したSATなり機動隊なりが問答無用の鎮圧で抑え込める可能性があるけど――交通事故件数がはねあがってるんだよね、大まかにいうと時間当たりで三百倍」
「それって、まさか」
思わず口に出してしまう。
「一日で一年分の交通事故が起きたらかなりヤバいよね」
想像するだけでも恐ろしい。
そしてそこまで再現ができるというのも驚きだ。
「で、君ら二人じゃどう頑張っても全員何とかするのは不可能、被害を一番抑える方法は君らが元凶を叩くことだよ」
「わかり ました」
「じゃ、できるだけ早くね」
と軽い調子で切り上げられた。
「すげーやつだな」
針山さんが漏らした。
「ま、そんなわけでこっついもやるだけやる、頼んだぞ」
そんな言葉で通話が切られた。
元凶――今は安逹だろう。
安逹を何とかしないと一日で一年分の犠牲者が出かねないというのは大きな情報だ。
各地を回るという選択肢は完全に排除する。
「うーん、となるとやっぱり安逹の行方になるな……」
「ずっと探してはいるのですが……」
ここまで見つからないと逆に不審に思う。
淡雪のドローンなどによる探索範囲と精度はダムの底の建物を見つけ出すくらいだ。
となると――
「なにか別のモノに隠れている?」
「『回転者』がダムの底の建物に隠れていたようにですか?」
うなずく。
すると淡雪が首を横に振る。
「ダムの周辺に怪しげなものも痕跡もありませんでした」
断言したということは本当に怪しげな物はないのだろう。
「空を飛んだ可能性は?」
「それこそすぐに気づきます」
ここであることにようやく気付く。
「橘に相談しよう」
「あ、確かにそうですね」
というわけで連絡をしようとして、いくつかのコールの後とあるメッセージが来た。
「おかけになった電話をお呼びしましたが、おつなぎできませんでした。」
淡雪と顔を見合わせる。
胸の内に苦い思いが満ちる。
俺たちは化け物が来ても何とかできるから余裕があったが、
いまは危険なのだ
「橘が危ない!!」
淡雪が何かの検索を始め、俺の視界に光るガイドが映る。
祈りながらそのガイドを追いかけるようにして走り出した。
明日も頑張ります。




