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4月15日-3

間に合いました。

 ダムの底からの脱出が済んだ後、橘のお姉さんに連絡を取り落ちあう場所として24時間営業のファミレスに入る。

 仕方がないとはいえ、橘はかなり落ち込んでいる。


 なんて声をかけようかと迷っていると、聞き覚えのある音が聞こえた。

 腹の虫だ。

 出所は少しだけ恥ずかしそうに。


「こんな空気の中大変申し訳ないのですが……」


 いつの間にやらコールするボタンを手元に寄せていた。

 元々空腹を感じていたらしい。


 橘と顔を見合わせて、苦笑する。

 橘の方も一瞬虚を突かれた様子だが、すぐさまうなずいた。


 いつものごとく狙いすました腹の虫は狙っていやっているのではないかと疑ってしまう。

 が、嬉しそうにメニューをめくっている顔を見るとそんな思いは吹き飛ぶ。


「なんというか、淡雪は天然だよな」


 ポツリと漏らすと、淡雪が不思議そうに首をかしげる。


「そうですか? 私はそこまでおかしな行動はしていないと思うのですが……」


 さすがに少し何か言おうと思うが、結局淡雪がおいしそうに食べている姿はとても良い光景なので納めることにした。

 対して橘は半目で抗議の視線を送るだけにとどめているようだ。

 さて、張り詰めた空気が緩むとまずするべき質問が浮かんだ。


「なぁ、橘?」


「……なんだ?」


 少しだけ険のあるある言葉だ。

 だが、今は無視をして。


「何食べる? 奢るぞ」


「は!?」


 店内に少しだけ響く声。

 店員とほかの客の視線が集まるのが見える。

 だから手ぶりで落ち着くように橘に合図をする。


 橘も少し恥ずかしくなったのか声を少し絞って話始める。


「おまえ、なぁ、あんなことあったんだぞ」


 どこかこちらを非難するような響きがあるが無視をする。

 どれだけ辛いことや切羽詰まった事情があろうと、人は腹が減る。

 淡雪を見てるとそれを思い出す。


「ここはファミレスだぞ? まず何か注文しないと」


「ぐ……そうだな――」


 と言ってメニューを開いて検討しだした。


===============〇================


 頼んだメニューが来るまで待っていると、息せき切ってお姉さんが現れた。


 橘を見ると、一瞬泣きそうな、しかし安心したような表情をする。

 が、すぐに目じりを引き上げ怒りを見せる。


 そのまま足早にこちらの席に来て。


「諸井!! あんた!! なんてことを――」


 とそのまま手を振り上げようとして、すぐに脱力したように垂らし。


「心配したんだからな」


 と橘を抱きしめた。

 周囲も何かを察したのか温かい視線を向けてくる。


 と、視界の奥で両手に皿を持った店員さんがこちらを見ている。

 料理ができたようで、かなりの量を頼んだので一刻も早く持ってきた様子だが――


「この状況だとなぁ」


 ぼやく。

 この状況で料理を配膳することができる人間はよほどの大人物だろう。


 どうしようかと悩んでいると淡雪の方からまた腹の虫が聞こえた。


 そこでようやくお姉さんは俺たち二人に気付く。


「二人もありがとう、対したお礼はできないけどすきなも――」


 そこでストップをかける。

 そして隙を見て料理の配膳が始まった。


「待ってください、その言葉はやめた方が良いです」


「? なん――」


 その言葉を言い切る前に絶句する。

 それなりに大きな机なのにあっという間に埋まったからだ。

 明らかに三人分の量ではない。

 最低限ラガーマンなどの体が資本かつ食い盛りの大学生が集まらないと並ばない量だ。

 さらに店員さんが――


のこり半分(・・・・・)はまた後程」


 という言葉を残して去って行った。

 俺はまぁ、有るかなと思う量だが橘家の二人にとっては異様な光景だろう。


 お姉さんは、


「も、諸井とクラスメイトの子たくさん食べるね」


「その、おれと山上はこれの一部(・・・・・)、ほぼすべてはあそこの小さい子が食べるんだよ」


 お姉さんは淡雪が悪ふざけで頼んだのかと思ったのか、一瞬険しい表情をする。

 が、淡雪がいただきます。をしてからの勢いを見てからは完全に唖然としている。


 お姉さんがちらりとこちらに視線を向けて。


「うん、理解したわ、ありがと」


 と若干ひきつった顔で感謝を伝えてきたので、軽く頭を下げつつ。


「どういたしまして」


 と答えた。


===============〇================


「さぁて、まず言うことがあるだろう」


 と食事が終わって一言目にお姉さんが橘に詰問するように話しかける。


「それは――」


 橘は言葉に詰まっている。

 言うべきことが多すぎて、どれから話していいのかわからない様子だ。


 それを見て、お姉さんは一つだけため息をつき。


「ただいまだろ?」


 あ。

 と橘はようやく気付いて慌てて頭を下げる。


「ただいま、姉さん」


「おかえり、諸井」


 そこまでいってお姉さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて。


「ま、家じゃないけどな」


「あ、それはそうだけど」


 温かな空気が流れた。

明日も頑張ります。

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