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4月?日

別人の話です。

――なにが起きているの?


 薄暗い部屋の中、力が入らない頭でぼんやりとそう思う。


――どうして


 音として認識できない発情しきった獣じみたうなり声と吐き気がこみ上げる湿った音しか聞こえてこない。

 音の出どころはおおむね両方とももはや感覚がなくなった私の下半身だ。


――なんで


 うなり声は『四つ首』の化け物で、動きは声の通りのそれである。


 不意に吐き気を感じて我慢せずにぶちまける。

 が、酸いにおいがする胃液しか出てきていない。

 もう何日も碌な食事をとっていないような気がする。

 と、化け物が私を思い切り――しかし、『楽しむ』ために加減して殴ってくる。


「ぁつ!!」


 フローリングに顔を強打し、そのまま転がり何かにぶつかって止まる、それは――


「とう  さん」


 化け物に首をもぎ取られた父の遺体だ。

 向かいには同じように首をねじ切られた母の遺体が無造作に打ち捨てられ、その本来首があるべき場所に父の頭がねじ込まれている。


――いやだ


 ふと触ると顔半分が血で真っ赤になっていた。

 よろよろと立ち上がる。

 ちらりと化け物を見ると、家じゅうからかき集めた通帳などの金目の物を眺めてが舌なめずりをして喜んでいる。


「なん、で」


 思い出すのはたった数日前、それこそ一週間も経っていない『はずだ』。

 その日はいつも通りだった『気がする』。

 朝は姉とともに朝食をとり、連れ立って学校に向かった『ような記憶がある』。

 その日の夜、姉が帰ってこなかった。だから両親が探し周り、警察へと相談した『のではないかと思う』。

 翌日姉は見つかった、――数か月(・・・)も碌な食事をとらされていなかったようにやせ細り、ひどい暴行を受けたような姿でだ。


 怪死、でもちゃんとお葬式を行おうとしたとき、化け物が現れた。

 以来時間感覚と、記憶の整合性が取れていない。


 母の手料理を手伝いながら、父が殺される光景を見せられて、手料理を食べさせられた。

 そしてお姉ちゃんと一緒に父の肩をもみながら、欲望をぶつけられ、母の指をへし折るよう強要された。


「ぐ、げ」


 思い出してまた胃の奥からナニカがせりあがってきて吐き出した。

 床にあたり硬い金属音を立てたそれは父の結婚指輪だった。


「は、はは」


 しゃくるような笑いが出てくる。

 さっきは確かに胃の中には何もなかったはずなのに、胸の奥がむかむかする。

 『もう何日も碌に食事をしていない』はずなのに『食べ過ぎだ』。


――むかしへ


 金属音を聞きつけた化け物は嬉しそうに結婚指輪を拾いあげた。

 そのまま乱雑に私を捕まえた。


――幸せだったあの日に帰りたいよ


 グシャグシャに泣きながら、だれにも届いていないであろう化け物の雄たけびを上の空で聞いていた。

夜に次の話を投稿できるようがんばります。

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