4月13+1日-2
間に合いました。
「しねしねしねしねしね」
頭のなかがまっしろだ。
視界は真っ赤で体中がいたい。
だが、殺せる。
うれしい。
おっさんの首にかけた手に力を強める。
「しねしねしねしねしね」
扉をけ破られてまず行ったのはじいさんの髪をつかんで無理やり引き倒して膝で鼻っ柱をつぶしてやった。
怯んだすきにおっさんの片目に指を突っ込んでやった。
メガネが一歩引いたので頭突きをして、ふらついたので思い切り蹴り倒して、全力で腕ひしぎをかまして一発で腕をへし折ってやった。
そこでようやくオッサンがつかみかかろうとしたので一歩下がってやった。
そうしたら片目がつぶれたせいで遠近感がはかれなかったのか空振りでずっこけた。
ダッセーオッサンの上で何度何度もジャンプしてやった。
さすがにぐったりし始めたので仰向けにさせて首を絞める。
「しねしねしねしねしね」
さっきからうるせーからあたりを見るが誰もいない。
「しねしねしねしねしね」
そこで気づいた俺だ。
うわごとのように殺意を漏らしていた。
「ふひゃ――」
腹のそこからたのしい。
今までのくそったれな人生のなんてくだらねーことだったか。
「ふひゃひゃひゃ!!」
クソ雑魚ナメクジニートがいま、この瞬間エリートの勝ち組をぶっ殺せる!!
下半身に血が集まるのがわかる。
ここまで興奮したのは初めてだ。
俺を見下していたあいつらもこうして紫色のオモチャみてーに殺してやる!!
殺してやるからな!!
こんなくそったれに産んだババアとジジイをぶっ殺してやる!!
俺が間違っただけで馬鹿にしたクソ教師も、クラスの奴らも全員ぶっ殺してやる!!
子供がいたらそいつもこうやって――
そしてふと見えるのは部屋の隅でガタガタ震えている残りの女3つだ。
ガキを剥いて首を絞める妄想をする――ああ、最高のショーじゃねーか。
俺を馬鹿にしたやつの前で、そいつの大事なものをぐちゃぐちゃにできるなんて最高だ!!
と、おっさんの顔に赤い飛沫が付いている。
出所は俺の鼻からだ。
クソ!! 興奮しすぎて鼻血が出始めた。
「死ねよ!! 死ねったら!! おい!!」
おっさんがそろそろ死ぬ。
と思ったその時だ。
大部屋の方から轟音が響く。
ハンマーで銅鑼を叩いたような音だ。
それは太鼓のように連続し、金属がひしゃげる音に変わった。
舌打ちをするが見にいかない死にかけは何をしてくるかわからないからここで殺す。
と――
「助けに来ましたよー!!」
という声が聞こえた。
だがもう遅い。
と、いきなり引きはがされた。
それをやってきたのは古くせー特撮で見たような金属製アーマーを着た奴だ。
そいつは俺の方を一瞥すらせずに、おっさんを担ぎ上げ。
「淡雪!! たのむ!!」
と言って持って行った。
ああ!! クソが!! あと少しでフィニッシュ決めれたのに!!
ふらふらと立ち上がり大部屋に行くと、えらく美少女のガキがおっさんの心臓マッサージを行っている。
金属アーマーは大部屋の外から荷物を次々運び込んでいる。
「よし、これでとりあえずは大丈夫ですね」
そのガキはこっちを見ると、明らかにオッサンを殺そうとしていた俺に対して、
「助けに来たので大丈夫ですよ、そこに座っててください」
「おぃ!!」
叫んだがそれを完全に無視して部屋の外から運び込まれた荷物を荷解きして何かを組み立て始める。
金属アーマーも俺の脇を走り抜けて、ジジイとメガネを担いで大部屋に連れて行く。
JKとガキは部屋の隅で固まっている。
「なぁ!!」
イラついたので声を荒げる。
さっきまでは俺が主役だったのにもう俺はモブだ。
なんで――
「なんでなんも反応しねーんだよ!! あぁっ!! おれは今オッサン殺そうとしてたんだぞ!!」
だったらそいつはトンでもねー危険な奴だ。
「危険な奴なんだからなんか反応しろよ!! せめて拘束するとかあるだろうが!!」
俺に注目してくれ。
なんで俺をみない。
「そんなこと言われましても……」
ちらりとこちらを見て。
「大体察せますが、とにかくみなさんを助けないといけないので」
そして金属アーマーもロボットみたいな外見に反して流暢にしゃべりだす。
「一度に全員は運べないから、何人かずつダメージが大きいこの人と一番若い人から、次は結構傷ついてるあなたとお爺さんで」
「な!!」
あの二人にとっては俺は他の奴らと同列扱いらしい。
ガキの方が俺に向かって、
「罰してほしいんですか?」
ときょとんとした顔で聞いてきた。
「それは――」
結局俺は何がしたかったのだろうか?
そこに思い至って立ち尽くす。
今まで何となく生きてきたが俺はなにがしたかったんだ?
さっきまでは馬鹿にしてきた奴らが憎くてたまらなかった。
引きこもっていたのはそもそもなぜなのか?
なぜ誰もかれもが憎かった?
なぜこんなに劣等感の塊だった?
なぜという言葉ばかりが浮かんでくる。
「ぅぅ」
うずくまる。
体中の痛みが染み出すようにあふれてきた。
立っていることすらできない。
ぐらぐらする。
「あ、まずい!!」
そんな言葉を聞いて意識が途切れた。
明日も頑張ります。




