最後の時
間に合いました。
溶岩に包まれ非常に明るい月は大分かたむき夜が明ける手前。
袈裟懸けに斬られたリーパーは満足げな笑みを浮かべる。
「ようやく、ですね」
その声はどこまでも穏やかだ。
柄を深雪に向けて大鎌を差し出す。
血で濡れたワンピースはもうまっ赤に染まっている。
「これをわたしの体に突き立てれば精製が始まります」
それをどこか寂し気な表情で深雪は受け取る。
一回転し、構える。
処刑を行う寸前のような光景だ。
刃の表面に回路のような光のラインが走り出す。
「“リーパー”」
「なにかしら?」
妹からの質問に答えるように気安い口調だ。
「お疲れさまでした」
「ふふ、そうねぇ」
穏やかな表情でうなずいた。
そのあと深雪に言葉を返す。
「これからの方が大変よ深雪ちゃん」
少しだけ悲しそうな表情をして、すぐに引き締める。
「分かっています」」
振った刃は胸の中央に突き刺さる。
最後に浮かべた表情はどこか満足げだった。
そのまま精製が始まる。
リーパーの体の結晶化が始まり成長するように水晶のような物が生え始める。
そこで深雪は振り返ってくる。
その表情は寂しそうな笑みだ。
「これでお別れですね」
「……そう、だな」
名残惜しいがこれでさよならだ。
強化外骨格を脱ぎ手を差し出す。
鼻がほころぶような表情で深雪は俺の手を握る。
「じゃあ――って!?」
その手を引かれて体勢を崩してしまう。
飛びつくような形になってしまった。
それを深雪は抱きしめてきた。
鼻には清潔な甘いにおいとどこかツンとする匂いだする。
一瞬迷うが俺からも抱きしめる。
深雪は俺の胸に額をこすりつけるようにしてつぶやいた。
「結局淡雪を越えることはできなかったですね」
少しだけ寂しそうな響きを持っている。
だから俺が返せる言葉はたった一つだけだ。
「……すまん」
「いいんですよ、勝ち目が薄い勝負だと思っていましたし」
それだけを残して身を離した。
「さて、装備の方はこれで返してもらいました」
「返すときは一瞬なんだな」
「元々私のものですし」
すこし寂しさを感じる。
繋がりがすこしずつなくなっていくような気がするからだ。
水晶はまだまだ成長し続け見上げるほどになってもまだ大きくなる。
どことなく大きな木を思わせるような見た目だ。
「これが成長しきったらお別れですね」
「……不思議な感じだな」
このまま朝を迎えるでもなく、しかし死ぬでもない不思議な終わり。
だからついこんなことを聞いた。
「会えるか?」
「……そう、願いたいですね」
終わりを惜しむような言葉だ。
空を覆うような水晶で作られた巨大な樹ができた。
見た目通りの素材なら作る事ができない芸術品に見える。
「また、会いましょう」
ふわりと浮かびかつて見たことがある鎧をまとい始める。
同時に虹色に煌めく花びらが舞い始める。
樹が花を咲かせたらしい。
虹の桜吹雪が広がっていく。
それは地上をゆっくりと覆っていく。
そんな光景の中、頭が仮面に覆われる前泣き出す寸前のような笑顔で深雪が言葉を告げる。
「宇宙の熱的死、時間の意味すら果てた先で会いましょう」
「ああ、またな」
深雪は一つしっかり頷いて、大きな鎌を振り上げて――
空を引き裂いた
明日も頑張ります。




