4月31日-10
間に合いました。
夜明けまであと数時間。
そんな時間でリーパーは悠長ともいえる電話を行っている。
「……あまりこういう事を言いたくないのだけど、日本を道ずれにするつもりかしら?」
「深雪ちゃんがそれを望むなら、そうなりますね」
リーパーの視線は深雪に向けられている。
深雪は慌てて首を横に振って否定している。
その様子を見てリーパーは小さく笑みを浮かべた。
「そうなるって……」
電話の向こうの穂高さんは絶句している。
聞いている俺たちもその言葉の調子とは裏腹の絶望的な内容に心が沈む。
何も手はないんだと再認識をさせられているように感じる。
すると深雪が不意に口を開く。
それはリーパーと穂高さんの通話に割り込まれる。
「……可能性は低いし困難ですけど出来ることはあります」
「なにかしら?」
半信半疑という思いを混ぜた声で穂高さんが問いかける。
深雪は一つだけ深呼吸して続きを話す。
「“リーパー”の持っている鎌にはどれくらいの空間がありますか? そしてもし私が使用した場合どの程度の物を収容できますか?」
リーパーは明らかに驚いた様子で聞き返す。
「待って、まさか――」
「ええ、全てを納めて太陽の膨張をやり過ごします」
その言葉を聞いてリーパーは二呼吸ほど思考してやはり首を振ります。
「たとえそれが可能だったとしても、完全に同じものはできませんね、やるなら太陽系、そして銀河とドンドン拡大されます、それこそ宇宙を一からやり直すことが必要でしょうね」
そこでいったんじっと深雪を見て。
「そのエネルギーはどこから持ってくるんですか?」
その疑問には深雪は即答する。
視線の先に見ているのはリーパーだ。
「“リーパー”あなたからです」
「わたしから? どうやって?」
いぶかし気な表情で聞き返した。
その言葉を受け止めたうえで深雪は返事をする。
「時間軸がおかしくなってしまった人のからエネルギー塊を作ったことがありますよね? そしてリーパーあなたは封十億年レベルの積み重ねを持っています、膨大という言葉ですら足りないレベルのエネルギーが抽出できませんか?」
その言葉にリーパーは大して考えることもなくうなずいた。
「できるますね、ただそれでも普通にやったら足りないですよ、それに失敗したらすべて終わります、その覚悟はありますか?」
「足りない分を何とかする方法は考えています」
そこで一度言葉を切って――
「宇宙を始めるなら、終わるまで待つ必要があるでしょう?」
「……現実的じゃない、とは言えないわね」
全く話についていけないので質問する。
「えっと、結局何をしたいんだ?」
リーパーはむしろ愉快そうな口調で話す。
「簡単に言ってしまえば最初からやり直しです、物質の再構成機能を使用して一から作り直します、かつてあった崩壊もなかったこととして、令和元年が迎えた世界を作り直します」
「……寂しい話だな」
結局今までのあがきが全部無駄だったといわれるような気がしてそんな感想を口にする。
その感想に対して深雪がはっきりと否定する。
「それは違います」
「なんでだ?」
深雪は自分自身をさして――
「私がいるからです」
「深雪がいるから?」
はっきりとうなずいた。
「“リーパー”は何度も何度も歴史を空転させました、でもそのたびに少しづつ滅んだ世界が重なっていました」
視線はどこか遠くの事を懐かしむようだ。
「死にたくない、とそんな思いがずっとずっと重なって“ナード”たちが生まれました、過去の歴史が焼き付いた証として様々なクリーチャーが現れ、ノスタルジストというまぼろしまで現れました」
そして。
と言葉を繋ぐ。
「過去に戻るのではなく、進むための夜――冬と言ってもおいいかもしれませんね、冬の訪れである雪が来ました」
深雪は俺の手を握る。
「全部思い出しました、私は世界を一度冬に沈めます、雪で覆われた銀世界で春を待つためにきました、戦って戦って必死に生きようと進んできたからゴールにたどり着くように」
「それってつまり――」
悲し気な表情を深雪は浮かべた。
「私はたった一か月ですが確かに生きてきました、それがないなら私は機械的にただ再生を行っていたでしょう」
吸い込まれるほど深い青の瞳が俺を見る。
それをそらすことなく見つめ返す。
「後悔があるからこそ努力できます、楽しかったからこそ前を向きます、やり直すわけですがこれはあきらめで消極的に選んだんじゃないです」
「……分かった」
小さくうなずく。
そして聞き返す。
「何をすればいい?」
そこでリーパーが割り込んでくる。
「戦うんですよ」
取り出した大きな鎌を手に満足げな笑みを浮かべて話す。
「たかが数十億の年月を越えずして宇宙の死を見届けるつもりですか?」
鎌の表面にうっすらと光のラインが走る。
それは電子回路にも魔法陣にも見える。
「“ナード”!!」
鋭く声をかけるとナードは小さくうなずいてリーパーの脇に向かい手を伸ばす。
それの手をリーパーはつかんだ。
するとナードは瞬きする合間に消えていた。
それと同時にリーパーの髪に銀に近い白が混ざり、片目が青から銀に変わっている。
「“ナード”からすべてを受け取ったわけですか……」
それに対して苦笑に近い笑みを浮かべる。
「いいえ、全員よ」
といった瞬間窓の外からある者が飛び込んできた。
手足が集まった存在だ。
そこにはいくつかの物を握っている。
それはウォーモンガーの右腕であり、またディープスロートの左腕であり、ブラックスミスの髪束だ。
以前に斬り捨ててから見ないと思ったら混乱の中それらを集めていたらしい。
おそらくナードがずっと操作していたのだ。
それらを受け取り閃光が走る。
「さて準備に手間取ったわね」
見えたのは、銀と黒が混じったくるぶしまで届く髪をもち、様々な色に見える瞳をしたリーパーだ。
右腕は陽炎をまとい、左腕の周囲は空気が震えているのがわかる。
「あ、この期に及んでハッキングで勝負をつけるのはやめてね」
と冗談めかしてリーパーが話す。
それに対して深雪は素直にうなずいた。
「五つの存在が重なった者をハッキングなんて無理ですよ」
「そう、ならいいわ」
と苦笑して――
「覚悟を見せて頂戴な、二人でどこまでできるか」
突撃してくるリーパーに強化外呼格を着こんで受け止める
「行くぞ!! 深雪」
「はい!!」
力を持った返事で最後の戦闘は始まった。
明日も頑張ります。




