20190431-1
間に合いました。
その時は来た。
膨張した太陽の熱でマグマの塊になった月は赤みがかった光を放っている。
表面の凹凸がなくなったせいでギラギラと輝いている。
「さて……そろそろだねぇ」
アシストフレームを着こんでヘッドセットに映された時刻を見る。
そこにはついに最後の日がやってきたことを示している。
場所は最重要拠点につながる門の前。
見える先の開けた場所にはスクラムを組むようにして待ち構えている警官隊がいる。
小型のポリカーボネート製盾を右手につけ、肩幅に足を開いて休めの状態だ。
「よっと……」
得物として何か持ち込もうとしたけど、慣れない物は持ち込まない方が良いと考えて結局無手だ。
ここは守りやすい場所だから精鋭が立つつもりだったそうだけど揉めに揉めて空白ができた。
「だから僕がここに立つしかないんだよねぇ」
半ばあきれ気味につぶやく。
面子がどうたらって言ってる場合じゃないんだけどなぁ。
と心の中でつぶやくが――
「そんなこと言ったらここを守るなって話だよねぇ」
言ってしまえばここに謎の集団が踏み込まれるのが癪に障るから絶対に阻止。
そんなところだろう。
「これは張るべき意地なんだろうけどねぇ」
考えが硬直してると言いなおしてもいいかもしれない。
そして何より――
「なーんかはめられてる気がするんだよなぁ」
嫌な予感が胸の中にみちる。
あまりにお膳立てができすぎている。
もっと前に判明してなら比較的飲める事件を重ねていくこともできただろう。
そして極端な話、ここ攻め込まれるのと一二三便のどちらかと言われたら真っ二つに分かれるだろう。
でも片方に乗せられているのが一人は正体不明の善意の協力者を名乗る女の子と、高校生一人。
それぞれは人格的には善良そのもので落ち度は何もない。
でもたった二人。
ならそっちを斬り捨てる判断を下すのは当たり前だ。
具体的な案はまだまだこれから立てるところのようだが、何とかするだろう。
「とにかく、この状況で判明させるのはリーパーの策だろうね」
確信に近い思いで断言する。
変な話だが追い詰められたともいえる。
嘘も騙すつもりない話で退路を断ってきた動きには舌を巻く。
「これから起こることを阻止したら本当に後がなくなるんだよなぁ」
もう何度目かわからないぼやきを口にする。
だが結論は変わらない。
完全に何十年も前からやり直すのに近いため対策をとるために時間稼ぎではない。
でもそうしないと全部パーだ。
だからやるしかないというかなり消極的な理由で二人を犠牲にする。
「リーパーがもう一回仕込んでそうだけど……確証もないしだとしてもやるしかない」
迷えるのが若いという事の特権なら、大人になってしまえば決定する――
「いいや、諦めるのが大人の義務かもしれないね」
その言葉に答えるように、空に浮かぶ月は瞬くような禍々しい光を放った。
明日も頑張ります。




