4月13日-2
間に合いました。
二人がたたずんでいる場所は橋の上だった。
それをずっと離れた場所で見ている。
「嫌なところにいますね」
ポツリと淡雪が漏らす。
それに同意しつつ。
「見晴らしが利く場所いられるとさすがに厳しいな」
見つからないように制圧して、今度こそ自殺できないようにしないといけない。
「煙幕やらそういうのは絶対怪しまれますしねぇ」
「……あと淡雪、いいか?」
「なんですか?」
ここで今更ながらの質問をする。
「俺ってこの状態で安逹を傷つけずに確保できるか?」
「あ、確かにそうですね、かなり難しいと思います」
「やっぱり」
強化外骨格は強力すぎるために力加減を間違えたらそれだけで簡単に傷をつけてしまうだろう。
確保するのは淡雪に任せた方が良いという思う意が浮かぶ。
が、確保する方法はいまいち思い浮かばない。
そこである考えが浮かぶ。
「そもそもなんで橘は安逹と行動をしてるんだ?」
「それは確かにそうかもしれないですね、時間がなかったというか勢いでやってしまいましたけど、なんででしょうね?」
「……すごく甘い話かもしれないけど、まず話をしたい」
渋るかと思ったら淡雪はあっさり了承した。
「わかりました」
「ありがとう」
頭を下げて、強化外骨格を外して橋へと向かう。
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橋の真ん中に立ち尽くしている二人の元に歩いていく。
川の水で冷えた風が肌を冷やす。
静かだが自己主張をするせせらぎの音が満ちている。
すっかり芽吹いた山の緑が鮮やかに写る。
どこかのんびりとしたスピードでたまに車が橋の中央の車道を通っている。
「久しぶり、かな?」
「よぅ山上、久しぶりだな」
時間としてはおとといぶりだが、立ち位置は長い時間が経ったようなものだ。
安逹もまたどこか幼くなったような顔で答える。
「きのうもあったけどね、あの時の格好でなら」
「……」
あと少しのところで二人は身構える。
場所はちょうど川の真ん中だ。
何かで隔てられているようにあと一歩を踏み出す気持ちが出ない。
「なぜ? と聞いてもいいか?」
クスクスと安逹が笑う。
どこか浮世離れした笑い方はどこか人形じみている。
スピードを出して走っている車が起こした風でかすかに安逹の髪が舞う。
「未来がつらい、また今日が来ればこれ以上悪くなることはないってそう思ったことは?」
「ない」
断言する。
良くなろうが悪くなろうが明日は来るものだ。
言葉遊びですらないのだからすぐに否定する。
「橘は、どうなんだ? そんな言葉を信じるのか?」
「いや、俺はただ家に居たくないだけ」
「は? 何を言ってるんだ?」
そのおかしな言葉に思わずとげのこもった言い方になってしまう。
安逹を化け物が助けているのは見ているはずなのに家出をするような理由は流石に納得できない。
「ほんとうにそんな理由で!?」
「そうだよ!! 山上!! お前にあの家で俺が何をされてるのか知ってるのか!?」
いきなり激昂する。
それに呼応するように大型トラックが排気をばらまいて通り過ぎたのが見える。
「死んだ兄貴の代わりだよ!!」
と泣くように叫ぶ。
「それってどういう……」
「言葉通りの意味だよ!! 俺には姉と兄貴がいる――兄貴はもう十何年も前に死んだがな!!」
バリバリと頭を掻きむしるように一方的に話し続ける。
「お袋はその時に頭がいかれたみたいでな、いまだに兄貴の成長日記をつけてるんだよ!! 理想の息子としてな!!」
そしてスマートホンをいじってどこかのページを開いて渡してくる。
「お袋がやってるブログだよ」
中を見ると確かに高校生の親が息子についての徒然話を更新しているが、その子供の名前は諸井ではなく――
「兄貴の名前は一史だ」
トシ君。
と書かれている。
学校のイベントも思い出せる限りはおそらく俺が通っている学校だと思える。
日付も、橘がやったことなどもぴたりと一致している。
名前が違うだけで。
普通の親よりも執念を持って調べて書かれたそれは背筋が凍るような覚える。
個人情報を保護するために名前を変えたとも取れないこともないが、その周辺の情報は一切ぼかされずしかも詳細に書かれているせいでその気になればだれでも調べ上げることができるだろう。
「お袋にとって俺は兄貴を妄想する元なんだよ、俺はもっと幼いときは兄貴の誕生日が俺の誕生日だと思っていた」
そこで自嘲するように笑いながら。
「その日に祝われていた、笑えるよな」
悲惨だ。
という思いが浮かぶ。
橘はある意味で母親から無視されていたのだ。
橘は見かけは大事にされているように見えるだろうが、本質は身代わりの人形扱いだった。
「だから家には帰りたくないんだよ、俺は俺だ」
悲惨で確かに同情できる面はあるかもしれない。
が、それとこれとは違う話だ。
ひどい状況だったから他人を害していいというのはない。
事件があったのかそれなりのスピードを出してパトカーが通り過ぎる。
「でも、分かっているんじゃないか? 今の安逹はかなりまずい」
「ん? ああ、分かっている」
「じゃあなんで……」
隣にいる安逹の肩を引き寄せる。
安逹もまた橘に体重を預けるようにしなだれかかる。
「大切にしたいからだ、俺は俺として安逹を手助けしたいんだよ」
「っ」
橘の中ですでに結論が出ている。
言葉で説得することは元から不可能だったのだ。
すると安逹は首筋にナイフを押し当てて切ろうと――
「甘い!!」
鋭い金属音と淡雪の声が聞こえる。
音の出どころはすぐ脇を通っている車からだ。
長々と話している間に車の底面に張り付くように近づいてきたらしい。
「くっ!!」
ナイフは水銀のように平がった金属で両手ごと拘束される。
だから安逹は舌を噛み切ろうとして。
「ごめんなさい!!」
淡雪は早口で謝って、安逹の口に左手を突っ込んでかみ切ることをできなくさせた。
さらに車道に飛び出ようとしたが、びくともしない様子だ。
「検査しますねー」
と軽い口調で首に右手を押し付けて何かを調べている。
橘も何かを手渡そうとするので、それを握って止める。
「こっちも事情がある!!」
「くそ!!」
あとは大急ぎで――
「まずいです!!」
淡雪の慌てている声に思わず聞き返す。
「なにが!?」
呆然と一言。
「もう、生まれます」
そして、それは開いた。
明日も頑張ります。




