4月30日-6
間に合いました。
「アァァァッ!!」
まず初めに感じたの熱だ。
熱湯を浴びせられたような鋭い感覚。
そして喪失感。
呼吸を行う感覚がなくなりひどく不自然な気分になる。
「――!!」
声帯もまとめてかみ切られたのか声が出ない。
息すら吐けず、一瞬体がこわばる。
「カカッ!!」
続いて俺の頭半分をかじり取った。
装甲をすり抜けているようで装甲には傷一つついていないようだ。
獣は獣が嬉しそうに叫んだ――
「ぁ!!」
そこが隙だ。
手にした剣を振るって左の後ろ脚を切り落とす。
返す刀で胴体を真横に断とうとして――
「ッ?!」
後に跳んで避ける。
それにまっすぐ蹴りを入れて空中の体勢を崩す。
「ぉ!!」
踏み込み袈裟懸けに振りぬく。
それは両断はしていないが確かに肉を切る。
「ギャッ!!」
叫ぶがそのまま踏み込み右腕を切り落とす。
続いて首を刎ねようとして――
「シャァッ!!」
残った足と尾を使って全力で逃げられた。
それを見据えながら剣を鞘に戻す。
「あ、あ――」
喉の調子を確かめる。
もうほぼ直ったようだ。
「危なかった」
「な、ぜだ?」
獣が金属音が混ざったような声をだす。
その声には困惑に近い。
致命傷を与えたのになぜだ?
それどころかすぐに動ける時点で
とでも言いたげだ。
が、その答えは簡単だ。
純粋にその程度では致命傷にならないだけだ。
「本当に人間離れしているな」
「ちぃっ!!」
舌打ちをして片足のみで器用にも襲い掛かってくる。
それを見て分かったことがある。
「すまん、橘」
避ける事すらせず、踏み込んで真横に振り切る。
手ごたえを感じて振り返ると血だまりの中でうずくまっているのが見える。
俺はというと――
「左足を持っていかれたな」
強化外骨格の人工頭脳から送られてくる報告には左足が破壊されたことを示している。
おそらくさっきの一瞬でお互いに受けたダメージは似たようなものだ。
しかし俺は入れ物としての強化外骨格は無事で、かつ修復能力も高い。
対して橘は入れ物は破壊され、修復能力も俺よりは低い。
さっきの頭の半分をえぐって俺を殺せなかった時点で勝ち目はなくなったのだ。
あとは力づくで抑え込み時間を稼ぐことだが、四肢が欠けている状態になるとおそらく不可能だ。
だから橘に問いかける。
「もうわかっただろう、大人しくあきらめろ」
血だまりに沈む橘の姿を見ていると燃え上がっていた殺意が鎮火するのがわかる。
これでおしまいなのだ。
「まだだ!!」
いきなりそう叫び、頭の装甲を外。
そして残された左腕にもっているのは見覚えのある特徴的な駄菓子。
思い出しとっさに口に出す。
「やめろ!! 橘!! それは――」
言い終わる前にそれの中身をすべて口の中に納めてかみ砕き飲み干した。
「?? なんだこりゃ、ただのラム――グッ!!」
そこまで言ったところで突然血を吐いた。
いや、血じゃない。
ドロリとした粘性を持ったそれはすり潰された肉だ。
つまり原理はわからないが内側から肉体を破壊している。
「クソ!!」
とっさに近づくが、手で止められる。
「来るな!!」
「なっ!?」
その言葉を無視して近づこうとして、俺に向けられた視線に気づく。
それはどことなく泣きそうな眼だった。
口からボタボタと赤い物をこぼしながら必死に言葉を放つ。
「みじめ……だよなぁ――何にも できなかった」
ついに目からも赤い液体がこぼれだす。
それはどこか涙のようにも見える。
「流されるようにやって きて……判断ミスって こうだ」
言葉はだんだんと弱々しくなる。
人工頭脳はごく初期の段階で打つ手がないことを報告している。
「なんで こうなったんだろうな」
「……」
押し黙りながらただ耳を傾ける。
「すまんな、付き合わせて」
「……なんて答えてほしい?」
俺の言葉に一瞬だけ素の表情を見せて、その後に苦笑を浮かべて。
「――」
息絶えた。
一瞥だけして――
穂高さんに報告を行うために通信機能を立ち上げた。
明日も頑張ります。




