卯月廿九日
間に合いました。
連絡があった場所――自衛隊にはとてつもなく因縁が深い場所に向かうといなくなったと思われていた子がいた。
「淡雪……ちゃん?」
その言葉にその子はゆっくり首を振って。
「いいえ、深雪です。
簡潔に言えば淡雪が回収し忘れた細胞から成長した別人です」
と言っているその手は山上君の手を握っているし、立ち位置が以前より近い気がする。
その様子が何となく不思議で質問する。
「なにか距離が近い気がするけど何かあったのかしら?」
「特にはないですよ、ただ淡雪に負けたくないので」
聞き返すと深雪ちゃんがどこか悪戯っぽい笑みを浮かべて言い切る。
続く言葉が――
「勝ち逃げとか許すつもりないです」
そこで山上君が少し困ったような顔をして――
「さっきからこの調子で……」
クスクスと笑いながら返事をする。
「相当贅沢な悩みね、ともかく二人ともお疲れ様」
そう伝えると二人とも軽く頭を下げた。
「特に山上君、今回は一人で戦わせて苦労を掛けたわね」
「いえ、……深雪が来てくれなかったら危なかったと思います」
話を振られた深雪は少しだけ恥ずかしそうに視線をそらして。
「遅れてしまったのでそういわれるとちょっと心が痛みますね」
すると山上君が首をかしげながら深雪ちゃんに話しかける。
「そういえば途中一度引き返しかけたけどあれ何でだ?」
「その、治療とかが終わったので乗り込む必要がないと思った事と……」
視線を外したまま――
「なんて顔で会いに行けばいいかわからなくて」
そこで慌てて否定しだした。
「あ、でもちゃんと見張るつもりでしたよ」
その様子に山上君が苦笑しながら深雪ちゃんの頭に手を置きながら。
「わかっているし、結局駆けつけてくれたから」
「ならいいですけど」
と少しだけテンションが下がっている様子だ。
そのほほえましいと言えるような光景を確認して手を叩き周りの隊員たちに指示を出す。
「さて、避難者の収容をお願いね」
それに短く返事が来て、手早く持ち場に移動していった。
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「どうぞ、深雪ちゃん」
深夜に近い時間、天幕の下で上がってくる報告を確認していると誰かが近づいてきたのでヤマカンで口に出す。
と――
「よくわかりましたね」
声の方を向くと驚いている深雪ちゃんが居る。
その素直な様子に思わず小さな笑みが生まれる。
「わざわざこんな時間のここを選んだってことは山上君に聞かれたくない話ね」
「はい」
と真剣な表情でうなずくその頭に違和感を覚える。
髪型がストレートのロングから髪をゆるく編んでいる。
「……差別化ってことかしら?」
「はい」
と今度はかすかにはにかむような笑顔でうなずいた。
内心、青春ねぇ。
などと思いながら深雪ちゃんの話を促す。
「さて、これからの話ですけどおそらくノスタルジストは大きな動きは控えると思います」
「それはなぜかしら?」
一つだけ頷いて空中に映像を投影する。
それは銀色の鳥に見える。
「こちらが圧倒的に有利だからです」
「……続けてくれるかしら?」
こくん。
と深雪ちゃんはうなずいて、それに合わせるように鳥が羽ばたきだす。
「現状ノスタルジストにこのサポートデバイスを攻略することは電子的なハッキングしかありません」
と言いつつその鳥は銀色の針のような物を連射する。
「大きさ百メートルを超える本体から装甲車くらいなら貫通できる攻撃を絶え間なく範囲で打ち込みます」
おそらくシミュレーションだろうがビルがあっという間に粉々に砕けていくのが見える。
「中にいろんなものを仕込めるので直撃しなくても充分倒せます」
「そして電子的な攻撃は深雪ちゃんを越えないと不可能なわけね」
はっきりとうなずいた。
「いちおう聞いておくけど性能は淡雪ちゃんと同じでいいのね?」
「はい、半身だから半分というわけではないです」
となると。
と前置きをして口を開く。
「昭和や平成の怪物の方が重要ってことね」
そこで深雪ちゃんを見送りながら。
「ありがとう、貴重な意見として受け入れるわ」
そこで一つ笑顔を浮かべて。
「もう遅いは寝なさい」
「はい、わかりました、おやすみなさい」
といって深雪ちゃんがその場を去って行った。
明日も頑張ります。




