4月29日-19
間に合いました。
「この言葉が再生される頃には私はもういないでしょう」
そこでスマホから聞こえる淡雪の声は苦笑に近い笑い方をして続ける。
「というよりこの伝言は死ぬほんの少し前に合成したデータを送っているのであらかじめ入れておいたとかではないです」
はっきり言い切って話を続ける。
「実は私の半身がひそかに動いているのは知っていました」
「え!?」
隣でかたずをのんで声に耳を傾けていた少女が驚く。
「川の底で何かをやっていることも知っていました、ただ具体的な内容までは調べることはできなかったですが」
そこでいったん言葉を切って。
「そこに居ますよね? 『私』」
呼びかける。
だから隣の少女はうなずく。
「ええ、います」
「『私』の事ですから恥ずかしがってなかなか出ていけなかったんじゃないでしょうか?」
苦笑交じりのその言葉に少女はうろたえる。
どうやら図星だったようだ。
「夢遊病みたいに色々なところを出歩いていたことも知っていますからね」
その言葉に明確に目を音がせる彼女。
その様子に思わず吹き出す
それに気づいたのか彼女はこちらに視線を向ける。
「多くの事は伝えられません、だから一つだけお願いします、今『私』の隣に居る奥谷さんをよろしくお願いしまう、わたしから『淡雪』へのお願いです」
絞り出されるようなその声を受けて『淡雪』と呼ばれた少女は――
「淡雪、あなたが『私』なら――こう答えるのはわかっていましたよね」
一言で切って捨てる。
「お断りします」
じっとどこかをらむように目を向けて言い切る。
「あなたの代わりになんてお断りします、『私』はあなたを越えてみせます」
と誰かに宣言するように言い切った。
「私の名前は深雪です、今決めました」
といって俺の手を取り飛び切りの笑顔を向ける。
「覚悟をしてくださいね、私は淡雪よりグイグイ行きますからね」
「お、おぅ」
その勢いに押されてちょっとヒキ気味答える。
俺のその答えに小さく笑ってウィンクする。
「よろしくお願いします」
そこで一つ疑問に思う。
「なんでそんなに急ぐ――というか勝負を仕掛けるような物腰なんだ?」
その質問に少女――深雪は真剣な表情でこちらを見て答える。
「時間がないこともそうですが、ただ先に告白して恋人になった人間に負けたくなんてないんです、出会った時期が違うだけでほぼ同じなのに勝負に乗ることすらできないというのは乙女の沽券にかかわります」
深雪は淡雪と違って色々アクティブな印象を受ける。
別の存在になったからか、別の存在になろうとしているからかということはわからない。
しかしここまでの短いやり取りで段々と淡雪と深雪が被らなくなってきた。
「それでは穂高さんたちが来るまで待ちましょう」
「あ、ああ」
最後まで押されっぱなしだなぁ。
という感想を得ながら穂高さんに連絡を取るためにスマホの電話機能を立ち上げた。
明日も頑張ります。




