4月29日-14
間に合いました。
「俺の脳がもう残ってない――」
普通なら衝撃的な内容なのだろう。
しかし、俺にとっては違う。
「だからどうした」
何度も戦って――いや、重傷を受けるうちにわかっていたことだ。
痛みに対しては鈍感になり、それに対して反射神経の類は研ぎ澄まされる。
その答えに対してリーパーは――
「でしょうね」
小さくわらった。
予想できていたとでもいうように。
「私が言っているのは、脳へのハッキングが可能という事よ」
「は?」
聞こえた内容が一瞬理解できなかった。
「……だとしたら?」
なんとか言い返せたのはその程度の言葉だった。
嫌な予感がしだす。
その内心を知ってか知らずかリーパーは柔らかく笑う。
「確かに山上君の脳をハッキングしても自由に体を動かすこともできないですし、素早く洗脳するという事もできないです」
でも――
と言いながら、口の端だけを上げる笑みを浮かべる。
そして人差し指で俺の額に触れる。
「不思議に思ったことはありませんか?」
「なにがだ?」
触れられたところに静電気のようなかすかな刺激を感じる。
「淡雪ちゃんが殺されたシーンを覚えていないことです」
「!?」
何となく喉に引っかかっていた物を言い当てられる。
淡雪は死んだとたくさんの人から伝えられているが実感がない。
この目で見たわけでもないので、まだどこかで生きている気がしている。
頭ではもう淡雪は死んでいるとわかっているが、それでも戦っているのはどこかで淡雪の死を認めたくないだけかもしれない。
「そこです、どうして都合よく忘れているのですか?」
「それは……」
唐突に質問されて、思わず答えに詰まる。
まくしたてるようにリーパーが続ける。
「答えは簡単ですよ、意図的に記憶が再生できないようにロックしている、戦うためにね」
その言葉が脳に浸透するように頭の奥に熱を感じる。
「いま、そのロックされた記憶を解除しています」
「――やめろ」
何とかその言葉を絞り出す。
しかしリーパーは変わらない笑顔を浮かべたまま。
「断ります、ここまで時間がかかったんですから、それに――」
ゆっくりとしみこんでくるような優しい声に少しだけ悲しそうな響きを持たせて話を続ける。
「忘れたままなのはかわいそうでしょう?」
胸にストンとはまり込むような言葉に思わずうなずいてしまう。
頷いてしまった。
「そういうと思っていました」
その瞬間、殴られたような痛みが頭全体に走る。
続いて耳鳴りとめまいが始める。
「急に回路を開いたせいですね、せき止められていた情報が脳内を駆け巡るのでしばらく我慢してくださいね」
何でもないことのように気安く言っているが、脳が焼き切れねじられるような不快な感覚にただ耐える。
「く そ」
大音量の話声を耳もとで鳴らされるような音のうねり、太陽光をにらんだような強烈な光。
押しつぶされて、かき混ぜられる。
そのどれもが重大な記憶であり、大きな情報と感情の濁流に押し流されて――
意識が、記憶が巻き戻る。
明日も頑張ります。




