4月12日-3
間に合いました。
確実に何かがある二人に逃げられたのと、広範囲で発生したノスタルジストの化け物の反応。
少し前までは二手に分かれて何とかしようとしていたが今は違う。
青木さんに連絡を取るために淡雪がスマートホンを取り出した。
「……もしもし、青木さん広範囲にノスタルジストの反応が出ました」
「にわかには信じれないけど、うそなんていうはずないよねぇ」
「同時に安逹さんを見つけました、彼女は絶対何か関わってます」
気を利かせたのか俺にも聞こえるようにしてくれている。
「うーん、広範囲ってどれくらい」
「本州ほぼ全土です」
「あらぁ、それはまずい」
とあまり緊迫感がない声で返される。
「君らの話だと平成十二年の出来事だっけ?」
「おそらくは……」
電話の向こうからは困惑するような声で続けられる。
「軽く平成十二年っていうけど、すごく多いんだよね、でも日本全国に影響を与えるなんて一つしかない、この年は戦後最大の食中毒事件が起きるんだよね」
「えっとどれくらいの規模だったんですか?」
「大雑把にいうと本州の真ん中あたり全部。その広い範囲がたった一つの事故と甘い見通しで一万五千人ちかいひとが食中毒を起こした」
「えっと以前にあったのって――」
「1万人いかないくらいですね」
さらに青木さんが続けてくる。
「それからの数年は食品でのトラブルが多くてねー」
そこまで話して青木さんが――
「いまちょっと君たちの街に問い合わせてるんだけど、安逹さんだっけ? 見かけた人いないっぽいねー」
ふむ。
とうなった後で問いかけてくる。
「で、きみら食中毒の方と安逹さん追うのどっちにするの? 正直どっちもやばいよね」
「……安逹を追う方が危険性が高いですね、さっき化け物が突拍子もなく出てきたので……」
しかしそこで淡雪が遮る。
「いえ、食中毒の方を集中して行いましょう」
「なぜ? 正直安逹のように街中でポンポン化け物出されると危なすぎるんだけど」
「私は安逹さんのお腹の中を調べたのですが、妊娠している状態です、そして生まれるのはもう少し先だと思います、生まれるのはおそらくクリーチャーですね、中身がもう人じゃなくなってました」
「ん~、つまり今日今すぐ生まれるわけじゃないから食中毒の方が大変だってことね、そういうことならOK、手伝ってよ」
二人してその言葉に強くうなずいた。
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とは言ったもののさっぱり見当もつかないというのが本音だ。
「……とりあえずどうしましょうか?」
とりあえず知識があると思われる大人に話を振ってみる。
「っはっはっは、そっちの方が長く戦ってるんだけど――まぁ、起きた食中毒は病原菌が出した毒素に汚染されていたから起きたせいなんだよね、そこから考えると大体の食品って引っかかるんだよねぇ」
「全部検査とかなんて不可能ですもんね」
「人手が足りない、というか非現実的なんだよねぇ、いやほんとほぼノーヒントだよね、いっそ死者は出ないとわりきってもいいかもしれないけど――」
被害を許容する言葉に思わず。
「それは!! そう、かも、しれないですけど」
しりすぼみになってしまう。
すると、淡雪が。
「諦めてはダメですよ、何か方法があるはずです」
と努めて明るい声で言う。
が、元の事件と同じ食品で起きるかどうかもわからない状態だ。
お手上げに近い。
「うーん、違うと思う食品を上げた方が良いかもしれないですね」
淡雪がぼそりと提案した。
「なら僕が思うに、缶詰やレトルト食品は違うかなぁ」
「……食べる時期が違うから被害が広がらないから?」
「そういうこと」
いやな判断基準だが、被害を広げるなら長期間保存が可能な物より、短期間で消費される物を汚染した方が良いということだろう。
「逆に足が速すぎる食品もダメですね、生魚などはあまり遠くに持っていけないので」
「菌が増えてそれを殺菌したという状況を作るなら加熱できない食品もダメだよな、野菜とか玉子とか、パンも」
となると長距離の移動が可能な程度に足が速く、加熱殺菌が可能な食品となるとそこまで広くない気がする。
「牛乳に近い乳製品や冷凍食品、揚げ物など」
「調味料の類は過熱がダメだったり、そもそも菌が増えないですし省いて良いですね」
「揚げ物やら総菜って基本店舗で作るから省いて良いと思う、おろしの段階で汚染されてる可能性もあるけど、広範囲で汚染されるっていうのはちょっと力業すぎるしね」
ここまでくるともうほぼ答えは出た。
「牛乳」
「広く出荷出来て、加熱殺菌されて、ほどほどに足が速い食品なんてそれくらいかもね、加工した貝も怪しいけどね」
しかしそこでいったん言葉を区切り。
「まぁ、貝での食中毒は重症だけど広い範囲で起きるようなものじゃない、起きたら患者の半数近くが死んだらしいけどね」
「ただ、ありえない話ではないので気を付けた方が良いかもしれないですね」
「まぁねぇ」
そこで淡雪が話を切り出した。
「そこまで絞れたのならちょっと探してみます、過去改変を行ったのなら冷蔵装置が壊れた記録がどこかに残っているはずなので」
「食べる直前に過去改変が起きるってのはないの?」
と青木さんが懸念の声をかけるが、淡雪はきっぱり否定する。
「もう過去改変が起きた後です、もう一回起きたのなら話は別ですが、現時点で危険なメーカーはリストアップできます」
「ならいいよ」
と青木さんも納得した。
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「ビンゴです!!」
調べ始めて五分もしないうちに淡雪が弾んだ声で報告する。
「牛乳とアサリ両方で明らかに保存でおかしな点がありました、それぞれのメーカーはすでにピックアップして青木さんに送りました」
「ありがたいけど、うーん、ちょっと権限越えてるんだよねぇ」
「そうなんですか?」
「まぁ、報告なら上げれるから、ソースも――ついてるね流石」
と、そのあとは二三言葉をかわして終了した。
「よし、後は橘と安逹を追おう」
「行きましょう」
といって、二人が向かった方に走り出す。
明日も頑張ります。




