4月29日-13
間に合いました。
「あ……」
不意に崩れ落ちる。
体に力が入らず床に倒れる。
「ぐ……」
呻き何とか立とうとすると――
「助けはいりますか?」
とリーパーが手を差しだしている。
「……」
睨みつけその手を無視して壁に縋り付きながら立ち上がる。
リーパーは笑みを浮かべながら口を開く。
「どうして立てるんですか?」
「戦う必要があるからだ」
もう剣を握っているのかひっかけているのかわからないまま視線を上げる。
耳鳴りとめまい、そして体中から熱を感じる。
「勝てるとでも?」
どこか楽しそうにしながら聞いてくる。
手にした大鎌を回し、切っ先を俺の顎に押し当てる。
痛みともいえないほど小さな感覚を得る。
それを振り払うこともできずにらむことで意思を返す。
それを見てリーパーは嬉しそうに続ける。
「死ぬまで戦うつもりですね?」
一歩近づいてきて俺の頬に手を当て覗き込むようにして話しかけてくる。
その手はひんやりとしており、手つきは俺をいつくしむようにやさしい。
「なぜ戦うのですか? もう淡雪ちゃんはいませんよ?」
「うる さい……」
腕も上がらず、ただリーパーの声を聞くしかない。
リーパーの手は俺の手へと伸ばされて握る。
しなやかな指で絡めるように握られて顔の高さまで持ちげられる。
リーパーの透き通った白をもった芸術品のような手。
そして対照的などす黒くうっ血し、スクラップを押し込んだような手。
「手だってもうこんなよ? 顔はもっとひどいわね」
見えるかしら?
と言いながら鎌の刃に映してきた。
血色悪くやせ細った顔と、重ねられた傷のために所々が金属になっている。
何よりも泣き出す寸前のような目がよく見える。
「泣きそうになりながら、それでも戦う理由てなにかしら?」
飛行機が大きく跳ね上がり、体が崩れ落ちて膝をつけてしまう。
もう一度立とうとするが体が言うことを聞かない。
「ただ一人で死ぬような目にあい、命の責任を負わされる」
視線を上げるとリーパーの吸い込まれそうなほど深い藍色の目に引き込まれる。
その視線に込められた感情は俺への同情だろう。
「本当なら気難しい面もあるけどやさしい叔父とくらして、友人と平和なやり取りをしながら未来のためにすごす」
思い出すのはまだ一か月も経っていないかつての事だ。
幸次さんを見送り、学校で授業を受けて、放課後橘をふくむ気の合う友人と無駄な話をしながら帰路につき。
明日もまた幸せな日常だと信じてくらす。
刺激はないがかけがえのない幸せだ。
こらえていた物が崩れ出す。
「さて、もう一度聞きましょう」
じっくりと溜めてリーパーが問いかけてくる。
「何故ここにいるのですか?」
俺の背後に回り、たくさんの人がぐったりとしている光景を見せてくる。
リーパー以外の音に破られた非常口から風をきる耳障りな音が聞こえる。
暴れまわった結果ズタボロになった機内がみえる。
「う ぁ」
もう一つ。
とリーパーは続ける。
「酸素が薄い高空でなぜ意識があるのですか?」
「え?」
その質問はあまりに予想外すぎて虚を突かれる。
「そもそも一吸いで動き回れるほど人間の脳は効率よくないですよ、だとすると答えは一つです」
俺の頭に触れながら――
「山上君、あなたの脳はもう細胞のひとかけらも残ってないわね」
静かに、だがはっきりと言い切られた。
明日も頑張ります。




