ⅩⅩⅨ-1
間に合いました。
街の真新しいマンションに入る。
オートロックを解除して上階――アジトに向かう。
玄関のドアを渡された鍵で中に入るとこぎれいな家具が置かれたリビングが見える。
気配はない。
おそらくリーパーはいない。
そのことに胸をなでおろす。
「ふぅ、黙って出たからなばれずに済みそうだ」
とつぶやく。
安心したのでナードがいる部屋に向かう。
出入りするドア自体は普通だ。
ノックすることもなく引いて開ける。
まず見えるのはたくさんのディスプレイに光に照らされた銀色の後ろ姿だ。
そして肌寒さを感じる。
それもそのはずたくさんの電子機器から発生する熱に対処するためにエアコンはもとより様々な冷却装置がフル稼働しているから――らしい。
ペタンと床にじかに座っているナードの背後からディスプレイに目を向けるが画面が高速で切り替わっているので内容を確認することができない。
見ていても何かができるわけではないが、ただぼーっと見ていると不意にナードが口を開く。
「コーラ」
「自分で取りに行け」
言い返すと、こちらを振り返り不安そうな表情を見せてくる。
その目はじっとこっちを見ている。
つい目をそらしてしまい、仕方なく部屋の外に出ながら。
「わかったよ、待ってろ」
と言ってキッチンの冷蔵庫に向かう。
内装を改めてみるがシンプルながらも落ち着いて品が良い。
これも結局いくつもある隠れ家一つに過ぎないらしい。
などと思っているうちに冷蔵庫についたので中から俺の分も含めコーラを二本取り出した。
ドアを閉めるときに手ではなくて腰のあたりをぶつけて閉めたとき、ふいに固い音が聞こえる。
「ああ、そういえば山上が持っていた薬か」
あの状況で必死に飲もうとしていたという事は何らかの回復、もしくはドーピングを行う類のものだと思う。
「なにに使うのかは分からないが何かの役に立つはずだ」
振ると軽い音がするが中にぎっしり詰まっている。
なんでこんな入れ物に入っているかわからないが、おそらく持ち歩いていても不審に思われないためだろう。
「まぁいいか、ナードにコーラを持っていこう」
リーパーやナードに相談できるはずもないので一か八かの賭けで使うしかないと心に決める。
ナードの元に戻るとさっきと同じようにディスプレイに向かっている。
一応キャップを緩めて渡すと、こちらを見て小さく頭を下げて。
「感謝」
と言いながら受け取った。
その時無邪気ともいえる笑顔を浮かべた。
その見た目相応の表情に思わず動揺する。
俺を拉致して改造を施した、ある種の敵だという事が一瞬抜け落ちかける。
「……なぁ」
無言でいるのも気まずいので声をかける。
「なに?」
言葉を切り詰めたように短く返してくる。
不愛想なように感じるが振る舞いを見ているとあくまでそういう気質なだけのようだ。
「何をしているんだ?」
「秘密」
と言ってこちらを一瞥もしない。
舌打ちをして俺の文のコーラに口をつける。
はじけるような刺激と甘さを感じる。
「言えないのか?」
「うん」
これ以上は聞いても無駄と考えてひと眠りするために与えられた部屋に向かった。
明日も頑張ります。




