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4月29日-3

間に合いました。

「はぁっ――」


 道を走っている。

 一心不乱にとある人影を追いかける。


「橘ぁっ!! なんでここに!?」


 通行人に振り返られるが無視をする。

 ちらりとしか後姿を見ていないが間違いない。


 俺と同じようにノスタルジストに拉致されたのだろうと考えて走る。


「――まて!!」


 俺は走っているのになかなか追いつかない。


 どこかに連れていくように少しれた場所の曲がり角に消えるようにして逃げている。


 そうして追いかけるうちに――


「ここは……」


 たどり着いたのは思い出深い場所――橘と    が立ち尽くしていた橋が見える堤防だ。


 太陽光が降り注ぎ、段々と寒さから遠ざかる長閑な空が広がっている。


 俺の方を振り返った橘はいつかのように濁った眼はしていないが、どこか空っぽに見える。


「この辺――だな」


「なにが――とは聞かない」


 どこか空虚なそしてなにかが決定的に壊れた表情を浮かべる。

 口の端を吊り上げ、空っぽの目のまま笑う。


「ああ、ここから始まった――この事件での因縁だ」


「ずいぶん経った気もするが――まだ三週間も経っていないがな」


 自嘲気味に笑うとそれにつられて橘も力なく笑う。


 橘は段々と前傾姿勢をとり、両腕をだらりと下げて自然体。

 対して俺は袋を縛る紐をゆっくりと握る。


 首筋のあたりにチリチリとした違和感が走る。


「なぜって聞いてもいいか?」


「必要か? お前が邪魔だからだよ」


 はっきりとした決別の言葉は胸の奥に重苦しい物がのしかかる。

 今までは真っ当な状態ではなかったが、面と向かって友人に言われると動揺する。


「過去に戻ればやり直せる、そのために山上、お前が邪魔だ」


「なぜ――そんなに昔に戻りたいんだ?」


 金属が噛み合う音がして橘の体は獣のような強化外骨格に包まれる。


 それに応じて俺も鞘から剣を抜き放ち、剣道で言う正眼の構えをとる。


 喉の奥でうなるようにして虎のようにしなやかに体をしならせ力を貯めてるようだ。


 引いたらジリ貧になる。

 そんな直感がしてすり足でじりじりと近づき――


「シャァッ!!」


「せぃっ!!」


 火花を散らし激突する。


 飛び掛かり俺の喉笛を狙ってきた金属の獣。

 それを真っ向から打ち落とすようにして剣をまっすぐ振る。


 直撃するその瞬間、顔を倒し歯で噛みとめようとする。

 だからハンマーでも振り下ろすようにさらに真下に振る。


 地面に叩きつけられるその瞬間、猫のように身をくねらせて地面に四肢で着地した。

 そして、剣を噛みしめたまま突撃――押し倒そうとしてくる。


 掴んだままだと押し倒される。


 なので手放す。

 力比べでは勝ち目はない。


 つんのめるようにして体勢を崩した橘のがら空きになった懐を狙って一歩踏み込み手を上からあてて――


 ドリブルを行うように真下に殴る。


 目まぐるしく方向が変化し、さすがに姿勢は制御できなかったのかハンマーを振り下ろしたような硬い音がして地面に打ちつけられた。


「がぁっ!!」


 剣の拘束が緩んだので柄に手を伸ばし――


「せぃっ!!」


 引き抜いた。


 火花を散らせながら引き抜いた剣を大上段に構え振り下ろす。


「なんでノスタルジストと手を組んだ!!」


 転がり避けられる。


 地面に打ちこまれた剣は地面に斬りこみを入れて振り抜けた。

 斬った断面は滑らかとはいえず砕きながら進んだようにみえる。


「過去に戻るため――()()()()()()


 唐突と言えるその叫びは重い内容だ。


()()()()()()()()()――それのどこが悪い!!」


 重心の低い獣の突進ははやい。


 避けようとするが、片足をひっかけられる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――名前も顔も思い出せないが大切にしたい人(『●● ●●』)に」


「くっ!!」


 頼み込むようなその叫びは俺の心を揺らす。


 やり直したい、また会いたい。

 それは俺も感じることだ。


 でも――


「でも進むしかないんだ!! 取りこぼした物をもう一度拾いに戻ったら、()()()()()()()()()()()!?」


 地面に剣をさし杖のようにして転ぶのはかろうじて回避する。


「――る さい」


 地の底からにじみ出るような低い声が聞こえる。


「うる さい!!」


 身を翻し俺の背後から襲ってくる。


「うるさい!!」


 固く、脆い、そんな印象を受ける叫びを橘は上げる。


「まだまだいくぞ!! 橘ぁ!!」


 腰を落としオーバーヘッドキックを放つように後ろに蹴りを放ちながら俺も叫んだ。

明日も頑張ります。

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