4月28日-4
間に合いました。
「山上君、今日は本当にお疲れ」
少し見ない間にかなり憔悴した穂高さんから話しかけられる。
場所は乗用車の中だ。
穂高さんは自衛隊の隊員らしき人にハンドルを任せて助手席から話しかけてくる。
俺が座っている後部座席からは窓の外が一切見えない。
特殊な偏光ガラスでも入っているのだろう。
経緯は、青木さんにつれられていつもの警察署に戻ったら穂高さんの使いを名乗る人物が待っていて、針山さんも青木さんも止めなかったのでついて行ったら穂高さんが乗っている車に乗せられた。
「めちゃくちゃ大騒ぎを超しましたが」
と返すと、穂高さんは苦笑に近い笑みを浮かべて。
「人死にが出ていないだけで十分ね」
そこで穂高さんが、さて、と前置きをして話始める。
「山上君に一つ確認したいことがあるの」
「なんですか?」
こちらを見ることなく一つの質問を問いかけてきた。
「淡雪ちゃんがいなくなって、様々な装備が使えなくなってもノスタルジスト達と戦うつもり?」
「はい、ここまで深くかかわったので」
穂高さんは一つため息をついた。
それは安堵とあきらめが半々のように思える。
「実はこの先関わらせるかどうかという話が出ているの」
「え?」
告げられた言葉に驚いてしまう。
その言葉に反応することなく穂高さんは淡々と続ける。
「忘れていたかもしれないけれど、山上君はただの学生、命をかけるような危険なことは本来遠ざけるべき立場なの」
「……」
押し黙り、続きの言葉を待つ。
しかしすぐに緊迫した空気を緩ませるように穂高さんは小さな笑いを浮かべる。
「でも、今日の事件でやる気があるならという条件付きで協力を要請するように流れが変わったの」
「ということは……」
穂高さんは少しだけ沈んだ声で話す。
民間人である俺を、それももう頑丈な強化外骨格を持たない状態でも戦わせることに思うところがあるようだ。
「協力してくれるかしら?」
「はい、そのつもりです」
でも、ここまでかかわってきていきなり関係がなくなるというのも座りが悪い。
なのでわがままに近いが関わらせてもらうつもりだ。
「さて、となると丸腰でというのは流石に問題ね」
「なにか用意でも?」
疑問を向けるとゆっくりと首を横に振って――
「さすがに民間人に自衛隊の装備などを貸与するのはできないわ」
そこで車がどこかに止まった。
促されたので車から降りるとそこは最低限の照明しかない倉庫だった。
そして見えたのは――
「なんでこれがここに!?」
俺の身長ほどの刀身を持つ細身の両手剣。
ウォーモンガーの武器だ。
「山上君を収容した現場に残されていた物です」
そうか。
と思い出す。
「残っていたんだ」
と言いながら柄を握ろうとして――
「ぅ……」
唐突にめまいが起きる。
まるで見たくもないものを見たように。
そして頭が痛み始める。
「大丈夫――なわけないわね」
「え?」
かろうじてその言葉を出す。
すると穂高さんがハンカチを差し出してきて。
「冷や汗で顔がひどい事になっているわよ」
「う……」
受け取ったハンカチで汗をぬぐうが、夏のように汗で湿ってしまった。
だけど――
「ふぅ……」
ゆっくりと深呼吸して落ち着ける。
「もう大丈夫です」
「無理だけはしないでね」
はい。
とうなずいて、ゆっくりと近づいて手に取る。
「思ったより軽い?」
手にしっくりなじむというわけではないが、軽く振り回してみれば使えないこともない。
「なるほど……」
「鞘は今作っているから後ほど渡すわ」
「よろしくお願いします」
ああ、あと。
と言いながら白い錠剤を渡される。
「え!?」
いきなり不穏な物を渡されてさすがに引いた。
おそらく何らかのドラッグの類だろうとあたりをつける。
すると俺が何を思っているのか分かったのか、苦笑しながら――
「ただのブドウ糖ですよ、燃費が悪くなっているのでしょう?」
「あ、なるほど」
食べてみると――
「ラムネ?」
「ええ、これくらいならおやつとして渡しても問題ないし」
と緑の入れ物が特徴のラムネ菓子を渡される。
「血管から注射するのも考えたのだけれど、シンプルな物の方が手堅いもの」
「まぁ、確かにそうかもしないですね」
早速一粒味わう。
スッと爽やかな甘みを舌に感じる。
かみ砕くと粉が崩れていくような歯ごたえと共に強い甘味を感じる。
「明日が本番――というより世界的大事件が起きるから今日ははやめに寝た方が良いわ」
「世界的事件?」
首をひねって疑問を向けると、表情を引き締めた穂高さんが答える。
「昭和六十年八月十二日、お盆に起きた単独機での世界最悪の航空機事故――」
そこでいったん言葉をきってゆっくりとはなす。
「日本航空一二三便墜落事故」
それは薄暗い倉庫に闇のように重い意味を持って静かに響いた。
明日も頑張ります。




