4月28日-3
間に合いました。
言われた通り右に曲がりしばらく進む。
すると唐突に――
「SshsiahaisaussiainNNEnewnwj!!」
「きゃーっ!!」
いつものように喚き声が聞こえる。
そして悲鳴も。
しかしその悲鳴にはまだ驚きの部分が多いので誰かが倒れているような様子はない。
手近な武器になりそうなものとして消火器を手にもってその部屋に飛び込む。
「Kakokoaoeokoeoerorker!!」
そこはリハビリを行う部屋だった。
壁が鏡になっており部屋の隅にマットが折りたたんでおかれ、中央付近に捕まり歩きするための手すりが設置されている。
怪物はその手すりによりかかるようにして倒れている老人とそのすぐわきに倒れている看護師に襲い掛かっている。
怪物の姿かたちは異様だ。
基本的には人の形をしているが腕の数と場所がおかしい。
六本の腕をでたらめに生やしており虫よりも生理的嫌悪感が強い。
五本の腕には刃物が握られており、もう一本にはハンマーが握られている。
そして顔にはニタニタ笑っている口と目しかない。
耳も鼻も体毛も存在しない。
着ている衣服らしきものはどこかの作業服のようにも見える。
「こっちだ化け物!!」
叫んで注意を引く。
思った通りこっちを向いた。
今までは迷わず突っ込んで殴り掛かっていたが今は強化外骨格は使えない。
慎重に、しかし迅速に動く必要がある。
「せいっ!!」
大きく振りかぶり消火器を投げつける。
砲弾のように飛んで行ったそれを怪物はハンマーで上から叩きつけるようにして迎撃する。
鐘を打ったような甲高い音が響いて地面にたたき落とされて、バウンドする。
全速力で駆けよりながら襲われていた二人に声をかける。
「今のうちに逃げて!!」
しかし、さすがにいきなりは動けないらしく腰を抜かしている。
「仕方ないか!!」
そこで怪物が手にした刃物で突きを放ってくる。
狙いは俺の目。
視線を外すことなく首をかしげてそれを避ける。
と、狙い目と見たのか残りの四本の腕ででたらめに斬りかかってくる。
考えなしに突っ込むと無駄に切りつけられるので腰を落として急停止する。
すると目測を誤ったのかほとんどが空振りする。
のこった横振りの一本を上にはね上げるようにして対処する。
「GGiagaigaukaoeorow!!」
苛立たし気に呻いてこっちに近づいてきながら武器を振り回してくる。
そのころには弾かれた消火器に手が届くのでつかんで必死に避ける。
「GragataftatgA!!」
決して早いわけでも巧いわけでもないが数が多い。
面倒な。
という思いを得る。
腰を抜かした二人はいまだに動けていない様子だ。
考えてみれば化け物がいきなり現れて、それを追いかけてきたように見えるやつと目に前で戦い始めたら動けなくなるというのもわかる。
消火器の丸みで刃物を受け流しながら覚悟を決めて一歩踏み込む。
二人を逃がすためには引き離すかここで倒すかだ。
進むたびに切りつけられる密度が増える。
そのたびに鋭い痛みが体の各部に走る。
斬りつけてくる怪物は余裕を持った表情で笑っている。
有効なダメージを与える手段を俺が持ってないと思っているようだ。
実際素手では思い切り殴っても大したダメージにはならないし、消火器で殴ろうにも大ぶりなり当たらないだろう。
だからある程度まで近づいたら――
「ここっ!!」
飛びつくように近づきながら消火器のホースを固定された金具から外して、怪物の口の奥に一気に突っ込む。
腹のあたりに灼熱感が来た。
刺されたようだが今は我慢して――
「食らえ!!」
消火器を噴射させる。
破裂音に近いくぐもった音が響いて口からピンクがかった粉を噴出させる。
「GaragagagayugagasgGAGagag!!」
どす黒い血が混じった咳をしながらよろめいた。
なので手にした消火器をフルスイングで頭部を殴る。
小気味いい金属音と手ごたえと共に怪物はフラフラと尻もちをついた。
だから後は杭を打つように尻もちをついた怪物の頭に何度も何度も振り下ろす。
何度か思い切り殴る内に、怪物が粉々になる。
「ふぅ」
汗をぬぐって腰を抜かしている二人の方を見ると――
「ひ」
「……」
とひきつった声で後ずさりする老人と俺を警戒する目で見ている看護師と目が合った。
その事実に少しさびしさを覚えるが、仕方がないと思う。
いきなり入ってきた人間が怪物とはいえ何かを撲殺したのだから。
「さて、次に行かなきゃ」
と口に出して、二人に軽く頭を下げてリハビリ室をあとにした。
明日も頑張ります。




