4月???日
間に合いました。
ベッドのなかで目が覚めた。
カーテンを抜けてさす太陽の光はまぶしいのでつい目を細める。
「……ん」
同い年の男の子――橘くんの声だ。
日に焼けた肌をした腕はサッカー部員なのにふとい。
そしてわたしはその腕に抱かれており、ぬくもりを肌で直接感じている。
というのも、わたしも橘君も下着しか身に着けていないからだ。
「……よいしょ」
なんとか腕から抜け出せた。
部屋に脱ぎ捨てられた橘君のシャツを着て立ち上がる。
壁には私でもしっているような有名なサッカー選手のポスターが貼られていたり、トレーニング用の道具らしきものが置いてる以外は結構片づけられている。
振り返るとスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている橘君が見える。
結構整っているように見えるが、それだけだ。
常にフワフワした気分だが浮き沈みがないせいで、良いとか悪いとかがよくわからなくなっている。
おとといまでは男のひとを見ると怖くて身がすくんでしまったが今ではどうでもいい。
それこそ身を任せるのすら気にならなくなった。
「ぁ――」
手の甲にやけるような痛みが走る。
ぶちぶちと音を立てて肌を中から突き破って出てきたのは昨日空にういていた黒いまんまるな物体の小さい物だ。
血で真っ赤に濡れたそれは微かだが脈打っている気がする。
「ぅぇ」
なんとなくペロリと血をなめたらひどい味だった。
もう血はとまっているが、汚すかもしれないのと、行為のあとだということも含めてぼんやりと思い浮かぶのは――
「おふろ、はいりたいなぁ」
橘くんのはなしだと、風呂場を使うときは一言言って欲しいというはなしだった。
でもいまだにスヤスヤ寝ている人を起こすのは忍びないと思うので最低限の物だけもって部屋を出ようとして気づいた。
「ああ、元々なかった」
病院から連れ出されそのまま着たから荷物なんて着ていた服くらいしかない。
なので少し前――まだ家族がいきていた二週間ほど前なら絶対しなかったはしたないかっこうで部屋を出た。
日がさしてきたばかりのためかひんやりとした空気は身をひきしめるようにかんじる。
ぺたりぺたりとフローリングを歩いて、階段を下りてゆく。
1階でお風呂場はどこだろうと周りを見ると、玄関のかぎが開けられた音がした。
どろぼうかな?
などとのんきなことを考えていると――
「ただい――って、誰だあんた!!」
少し年上の女の人が挨拶と共に入ってきたが、すぐに誰何に移った。
薄く化粧をしているが少しくたびれており、服装は活動的なパンツスタイルだ。
軽く色が抜かれてる髪は肩口で切りそろえられている。
鋭いまでいった目はこちらをにらみ、来ているシャツを見て。
「その服……ああ、そうか、なるほどねぇ、あいつも隅に置けないねぇ」
「んと……」
勝手に納得されたので戸惑っていると、自然な動きで向かって右の扉を示す。
「風呂場はそっち、あたしはいつもこの時間に帰ってくるからちょうど沸いてると思う」
「ありがとうございます」
頭を下げると、ヒラヒラと手を振ってくる。
「いーのいーの、弟の彼女だからね、それにしてもあいつは後できっちりしめなきゃな、もちっとましな服を用意しとけっての!!」
「えーと、橘くんは悪気がないんだと思います」
その言葉を聞いて、うわさ好きのおばさんめいた表情が浮かんだ。
「苗字にくんづけって、いやぁ、初々しいねぇ、まぁそんな関係の子を抱くとはやっぱりしばかんとな」
えぇ。という困惑が浮かぶ。
独特のテンションの人だなぁ。
などと思っていると風呂場の方へぐいぐい押された。
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湯槽につかって体をさっぱりさせて上がると、新しい下着とジャージの上下が用意されてた。
先程の女の人が用意してくれたものあろうか?
それに袖を通して出ると家の奥から言い争いをしている声が聞こえる。
声からすると一人はさっきの女の人だ。
どうしようかなと思っていると誰かにーー橘くんに腕を捕まれた。
「ちょっと出掛けようか? ほら服とかの話もあるし」
口調こそ穏やかだが表情はかなり切羽詰まっているみたいだ。
断る理由もないのでーー
「うん」
素直にうなずいた。
明日もがんばります。




