Apr. 28 2019-1
間に合いました。
ガチガチと金属が噛み合う音がして体が金属に――強化外骨格に覆われていく。
生命維持を担っていた物でもあるのであの緊迫した状態ならわざわざ取り外さないと考えていたので上手く行った。
事実として私たちよりも淡雪ちゃんが治した方がよっぽどうまく治療できる。
何らかの制御装置をつけていたとしてもさすがに体全てが蒸発したならば再生なんてできるはずがない。
体半分がねじ切られても生きていた時は流石に驚いたけど。
と思いながら橘君に声をかける。
「ふふ、気分はどうかしら?」
「最悪だ」
明瞭な声で返事が返ってくる。
狙っていたとはいえ猛獣じみた性質だった時は苦労していた。
頭部は爬虫類と狼の中間生物を人型に落とし込んだ頭部に変わっており。
全体的に獣の形式を取り入れた外骨格としてより洗練されている。
「さて、橘君?」
視線がこっちに向けられている。
それを確認してたっぷりと間をおいて問いかける。
「過去に戻りたくありませんか?」
「ああ」
即答。
その事実に笑みを濃くする。
ここまで綱渡りだったが、明確に過去への回帰を求める協力者ができた。
そこで大鎌を取り出して――
「危ないですね」
橘君の拳を受ける。
威力的に直撃したらただでは済まなかっただろう。
「ちっ!!」
「せめて一発と思っているのでしょうが、私は弱いのですからやめてくださいね」
クスクスと笑いながら一歩距離を取る。
「おまえが仕込んだんだろうが!!」
怨嗟が込められた叫び声。
しかしその声にはどことなく覇気がない。
「橘君自身が手を下したのはそうでしょう?」
逆に問いかけて、距離を詰めて手をつかむ。
「くっ!!」
離れるために重心をずらした。
だから足を払って倒す。
「命令を下していませんよ、ただちょっと理性や良心がマヒしていただけですよ」
獣のように叫んで、背筋の力だけで跳びあがり襲い掛かってくる。
顎を下から叩くようにしてはね上げる。
タイミングをうまく合わせたのでかなり高く跳ね上がった。
「ちぃぃ!!」
空を飛び上空で姿勢を整えて急降下して襲ってくる。
あまりにもまっすぐな軌道に苦笑する。
「そろそろ落ち着きましょうか」
言いつつ掴みかかる手をつかんで地面にたたきつける。
くぐもった音がして地面に橘君がめり込んだ。
その後ギシギシと金属をきしませる音と共に顔を上げる。
「絶対にゆるさねぇ」
「許さなくてもいですが、過去に戻る方法は把握していますか?」
「……」
やはり勢いで襲ってきただけのようだ。
「若さゆえの向こう見ずな行動は時には逆効果ですよ」
とあきれ気味に話す。
「大体過去に戻ればすべてなかったこと――これから起こることになります」
橘君はまだこちらを警戒しているようだ。
「何度でもやり直して望む未来をつかめばいいじゃないですか」
「なんで俺なんだ!!」
その声に少しだけ考えて返す。
「偶然です」
「偶然って……」
この答えは予想外なのか、言葉に詰まっている。
「運命なんてそのようなものです、たった一つの石につまずいても人は死んでしまうように簡単に未来は変わってしまいます」
偶然クリーチャーに目をつけられたせいで家族を皆殺しにされてエネルギー源として変換されてしまった少女のように。
簡単に人は運命という激流に押し流されてしまう。
それに立ち向かえないなら押し流されるだけだ。
「過去に戻りたいのなら、私のいう事をよく聞いてくださいね」
そう伝えると橘君は不承不承という様子で――
「わかったよ」
とうなずいた。
クスクスと軽い笑いを行う。
あと数日、ここにきてようやくピースがそろい始めた。
あとはこちらが持っている手札をいつ切るかだけだ。
そう思い笑みを濃くした。
明日も頑張ります。




