ⅩⅩⅧー9
間に合いました。
かえりたい。
ただそう思いどこかに向かって走っていた。
もしかしたら最初からそう仕組まれたのかもしれない。
が、木々を飛ぶように越えて。
自動車を容易く抜き去ったのは爽快だった。
建物の壁面をかけ登り、電線を伝うように渡る。
ただ自由に駆け回るのは風になったかのような気さえした。
そしてーー
「そうですか、まだ手がかりも……」
受話器を手にどこかと連絡をしているとても大切な誰か。
においをたどってここまでこれた。
帰る場所はここだ。
という確信がある。
「ええ、はいーー有難うございます」
覚えにないほど丁寧な口調で話している。
ここで姿を現してしまいたい。
だがーー
喉から漏れるのは機械音じみたうなり声。
もう人の形をしていない四肢。
もとの姿とは似ても似つかない。
「GlorrogOuuーー」
じっと眺める。
眺めるだけで満足していたのか、それとも襲いかかる隙を探っていたのかもしれない。
どちらだったのかは今のおれにはもうわからない。
「よろしくお願いします」
受話器を置き、近くのソファーに腰を下ろした。
その表情は不安げだ。
「諸井のやつ今どこほっつき歩いているんだ」
覚えられている。
その事実に何よりも嬉しくなる。
だから少しだけ体を乗り出す。
よく見るために。
「ったく、早く帰ってこいよ、この子が産まれちまうぞ」
腹を撫でて一言呟いた。
その表情は優しさに満ち溢れている。
だからあることを直感で理解した。
産まれてしまったらおれの居場所が無くなる。
追い出されるわけではないが、新たに作られる家族の異分子になる。
そんな直感だ。
その考えはとてつもなく自分勝手な考えだ。
しかし、思い浮かんでしまったどす黒い感情を止めることなんてできない。
隙を狙う野性動物のようにただじっと待つ。
注意が完全にそれるのを待つ。
「ふぅ、待つしかないか」
そう呟いてソファーから立ち上がり、向こうを向いた。
その瞬間ーー
「gAaarAA!!」
叫び声をあげて突入し押し倒す。
細くしなやかな肢体を組み敷いた独特の高揚を感じる。
おれの姿を見てーー
「化けもーー」
叫ぶ前に喉に噛みついて絞め落とす。
勝ち気気味な顔から力が抜け落ちる。
頭に血が登り真っ赤な視界と心臓の鼓動が頭のなかで鳴り響く。
衣服を剥ぎ取り、それで猿ぐつわを噛ませ、手足を縛る。
軽く汗ばんだ滑らかな下腹部ーーその内側の臓器に向かい噛みついた。
激痛で目がさまし、絶叫を発し暴れようとしたようだか猿ぐつわと拘束のせいでくぐもった声と身をよじるくらいかできていない。
血が散乱し、柔らかいものを噛みちぎるべちゃついた音が響く。
涙などの体液をこぼすがそれでも止まるつもりはない。
出血で死なないように迅速に噛み裂いて目的の臓器にたどり着く。
破壊された顎は大きく開く事ができてーー
ぶつり。
となにかをちぎる音ともに目的の臓器を奪えた。
口の端から血が出ている。
痛みに耐えるために強く噛み締めすぎて歯を割ってしまったらしい。
誰かから渡された注射器と一体型の薬をくびすじに刺した。
そうしたらどういう原理かは分からないが出血が収まっている。
口のなかに臓器を含んだままニィと笑みを浮かべてもと来た道を帰っていった。
その後は曖昧な記憶しかないが誰かに臓器を渡して、手はず通り海へと向かったけど
明日もがんばります。




