ⅩⅩⅧ-4
間に合いました。
青木さんと別れて個室に入り、ベッドに腰かける。
精神的にも肉体的にもつかれたので崩れ落ちるようにして倒れこむ。
一つ深呼吸をして伸びをする。
「つかれた」
昨日――今日になったばかりかもしれないが。
とにかく曖昧な状態から復帰したらあっという間に警察に連行されて、今度は別の人がきて入院。
なかなかないレベルのあわただしさだったと思う。
そう誰かと手に手を取って逃げていた時の――
「あれ?誰と逃げたんだっけ?」
誰かと逃げたのは確かだけどまったく記憶に浮かばない。
それどころかズキズキとした痛みを頭に感じる。
「っ――」
段々それが強くなりうずくまりただ痛みに耐えていると、部屋をノックされる。
そして一人の女が入ってくる。
「なっ!?」
ものすごい美人だ。
くるぶしあたりまである滑らかな髪が印象に残る。
ニコリと柔和な笑みを浮かべて話しかけてくる。
「転院することになりましたよ」
「え? 今来たばかりで――」
そこで指を一本立てて。
「だからですよ、裏をかくなら事態が一段落したと思った瞬間です」
なるほど。
と納得する。
入院後すぐにまた移動されるなんて想定していないだろう。
そう考えれば今がチャンスなのはわかる。
「では行きましょう」
滑らかな動きで手を取られ立ち上がる。
あんなに疲れ切っていたのにごく自然に立ち上がれた。
「え?」
自分の足で歩いているのにまるで連れ去られていくような感覚を得る。
そのことに背筋に氷を差し込まれたような気がする。
抗議の声を上げようとしたら――
「少し目をふさがせてくださいね」
と言って目隠しをされる。
「まて、なんでこんなことを!?」
「移動中に余計なものを見ないためですよ」
と恐ろしい事を言われたので手を振り払おうとするが――
「できない!?」
「あまり騒ぐと針山警部にばれますよ?」
それを言われると体の芯から震えがくる。
その様子を見た相手はクスクスと笑いながら手を引いていく。
誰にも見とがめられることなく、どこかに座らされる。
「では少し待っていてくださいね」
という声と共に車のエンジン音が聞こえる。
「ふふ、次に目を開けたら驚くと思いますよ」
口調はどこまでも楽しげで柔らかい。
しかしなぜか聞いていると背骨をつかまれるような妙な感覚がする。
「どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ」
といった後に続けて話しかけてくる。
「そろそろ目隠しを外してもいですよ」
「よかっ――」
た。
とその最後の言葉を言えなかった。
というのも――
「なんでおれの地元の道を走っているんだ!?」
見覚えのある道だ。
震災のせいで建物はかなり傷ついているが見間違えるはずはない。
でもつい数分前までは全く違う街――それこそ県が一つや二つでは済まない場所に居たはずなのに。
「なん……で」
「秘密ですよ」
と悪戯っぽい笑みを浮かべる。
その表情にドキリとするが、それ以上にこの異常な状況への不信感が強い。
「お姉さんが待ってますよ」
耳から脳に滑り込むささやき声。
それは沼に引きずり込むようにおれの意識をあいまいにしていく。
「……」
連れられるまま、見覚えのある街を進んでいった。
明日も頑張ります。




