4月28日-1
間に合いました。
意識が急速に浮上する。
「!?」
飛び起きるように身を起こす。
そこは見覚えのない病室のようだ。
「ぁ――」
何か声を出そうとして、めまいがする。
その物音を聞きつけたのか個室のドアが開けられる。
顔を出したのは看護師だ。
彼女はこちらを見てるが視線を合わせずに、柔らかな口調で話しかけてくる。
「山上さん、まだ本調子ではないので横になっていてくださいね。」
と言って中に入ってきてベッドの脇の点滴を交換し始める。
そのパックにはブドウ糖とプリントされている。
疑問に思っていると看護師の方とは入れ違いに青木さんが入ってくる。
「元気――ではないね」
「な――」
なにがおきたのですか?
と言おうとして喉から声を出す事すら億劫なことに気付く。
「ああ、良いから横になってて、一つずつ説明するから」
その言葉に甘えて横になる。
すると吸い付くように体から力が抜けたことに気付く。
恐ろしく疲れているように。
「まずはよかったことから話そうか、橘君は無事保護できたよ」
その言葉を聞いて肩の荷が下りたように感じる。
「別の病院で精密検査しているけど、おそらく大丈夫だってさ」
そこで青木さんは俺の方を見て、普段と変わらない軽い口調で話しかける。
「で、山上君だけど一言で言っちゃうと死にかけた」
「?」
最後の記憶はウォーモンガーの腕を斬り飛ばして――
「ぅ……」
目から頭の中まで針で刺されたように痛い。
吐き気が腹の奥からせり上がってきて我慢できずに吐こうとする。
が腹の中に何もないのかただ絞られるような苦しさだけが来た。
「どこまで覚えているか聞かない方が良いね」
と少しだけ声のトーンを落として話を続ける。
「死にそうになった原因は餓死だよ」
「え?」
思わず声が出た。
あまりに突拍子もない死因のためだ。
しかし青木さんの表情は真剣だ。
「二人からの通信が突然なくなって、撤退していた日米連合部隊の人が確認に戻ったら山上君が倒れていた」
淡々と話を続ける。
それはじわじわと俺にのしかかってくる。
「強化外骨格はなくなっていて、見た瞬間は寒さで凍えていると思ったみたいだね」
でも違う。
とゆっくりと首を横に振りながら話を続ける。
「極端な低血糖状態、そして満足に食事ができていない人のようにガリガリになっていた」
その言葉に疑問に思って腕を見るがほとんど変化はない。
疑問に思っていると――
「ある程度医療知識のある人が発見したからよかったね、一刻も早い糖の補給を行ったから病院までもった」
そして今まで点滴で必要な栄養の補給を行っていたってこと。
と話して――
「とりあえず山上君が入院している理由はこういう事」
ここまでで質問は?
と聞かれたのでさっきよりは楽になった口を開く。
「いま、みたけど――腕はふつうなんですが」
「ああ、そうだね、腕は大きく変わってないけど――」
と言って鏡を差し出してくる。
それを除くと――
「え?」
顔立ちは変わっていないが顔の一部が金属に置き換わっている。
「まさか……」
「体が動くエネルギーを確保するために脂肪やたんぱく質を分解した結果、色々足りなくなっていたみたいでね、栄養補給をしだしたらそんなになっちゃったみたいでね、ごまかすの苦労しているみたいだね」
行き着くところまで行き着いてしまったなぁ。
とどこかのんきな考えが浮かぶ。
「それで餓死しかけた理由ってわかる?」
「……そういえば」
ずいぶん前に淡雪から警告された気がする。
「淡雪からのエネルギー補給がないない状態で強化外骨格を使うとすぐに餓死するって」
しかしどれだけ離れていてもエネルギー供給が途切れたことはなかった。
そのことがある事実を示している気がする。
頭の奥に何かが引っかかる。
しかしそれを言語化できない。
「……それでか」
静かに青木さんが言葉をもらす。
青木さんは感情をこめていない平坦な声でゆっくりとある事実を伝えてきた。
「淡雪ちゃんの死亡が確認された」
「嘘だ!!」
衝動的に言い返す。
その際青木さんに食って掛かるような体勢になっている。
「だって――俺は、ウォーモンガーの腕を斬って――」
頭の中から破裂するような痛みが走る。
がそれ以上に膨れ上がっている激情が痛みを無視する。
「斬って――そしてウォーモンガーの剣はウォーモンガー自身を真っ二つにして」
熱で太陽のように輝くウォーモンガーの剣は投げられて――
「それは――」
ブツン。
と何かが切れる音がして崩れおちる。
「……橘君の証言だよ、淡雪ちゃんは橘君をかばって死んだ、死にざまは聞かない方が良いだろうね、思い出す段階でそこまでストレスがかかっているしね」
淡々と事実を報告するように青木さんは話す。
「まだ動ける淡雪ちゃんと、その時点まで身動き一つとれない橘君、どっちの方が狙いやすいかという話だったんだ思う」
でも。
と青木さんは続ける。
「橘君へネガティブな感情を向けてしまいそうになるなら、もう二度と会わないよう顔や戸籍を変えることも含めて手配できるよ」
「俺の為、ですか?」
その言葉に青木さんはゆっくりと首を振る。
「橘君のためでもある、洗脳されていたとはいえ結構な人を殺しちゃっている、あのままおとがめなしは感情のレベルで納得できない人が出てきかねない」
俺と橘の為。
それを言われて俺は考える。
その時間はどれくらいなのかわからない。
しかし、じっくりと考え上で青木さんにあることを伝えるために口を開いた。
明日も頑張ります。




