April 27th-2
間に合いました。
「おっと」
という軽い声と共に身を翻した。
「ちぃぃ!!」
手にしているのはポンプアクション式のショットガンだ。
「撃った弾は――暴徒鎮圧用の射出型スタンガンですか」
ほとんど見えていないのにそこまで見抜かれたことに冷や汗が出る。
中は改造されており、当たれば熊くらいなら心臓麻痺にもっていけるほどの威力だ。
奴らは頑丈なため銃弾は急所に当たらない限りはしばらく動ける。
が、電流ならば筋肉が思ったように動かせなくなるので即行動不能にできる。
だからショットガンで発射できる強力なスタンガンを使用している。
しかし、二発外してしまった。
あと四発しかない。
「さて、どうします?」
目の前にリーパーが唐突に現れた。
ソナーによってスキャンされた整った顔がはっきり見える。
とっさに引き金を引こうとして――
「あっぶね!!」
思いとどまる。
その判断は正解だったようですぐに視界から消えた。
アシストフレームの補佐がないと狙いをつけることもままならない。
ノスタルジストと俺たちの差をまざまざと見せつけられているようだ。
「だからどうした!!」
叫び。
考える。
そもそもなぜアシストフレームが未来予測を行っていないのか。
行動予測するロジックを解析していると言っていた。
ある賭けが思い浮かぶ。
「命がけだな」
つぶやいて覚悟を決めて岩を背にする。
問題は向こうがちゃんと俺を狙うかどうかだ。
別の奴を狙われたら終わりだが、まず一人ずつ片づけることを優先すると信じてじっと待つ。
と誰かが足音もなく降りてきたのが見える。
「ここだ!!」
それを相手は身をかがめて当たり前のように避けた。
次弾を装填してギリギリまで引き付けてもう一発撃って――
「少し遅いですね」
するりと伸びる貫き手が地面スレスレから中央を狙って飛んでくる。
それを――
「ぐ――ぁ!!」
わざと食らう。
そして腹に灼熱感が走るが――
「やっぱりな」
アシストフレームが読めないのも当たり前だ。
殺す気がないのだ。
致命につながる一撃を放つのが普通だ。
だが最初から殺す気のない行動は予測できるか?
答えは違うはずだ。
前提条件が違うのだから。
「食らえや!!」
次弾を装填し弾を抜く。
続いて至近距離でショットガンの引き金を引く。
その弾を空中で弾いた。
その光景にさすがに目を剥く。
「おぃおぃ、どれだけだよ」
呆れ気味に話す。
いくら何でもでたらめすぎる。
「何か言いたいことは?」
笑みを浮かべている。
だがもう勝っている。
「正真正銘最後の一発だ」
六発目の弾丸を握りこみ俺のどてっぱらに突き刺さっているリーパーの腕に思い切り叩き込んだ。
避けようがなく、対処できない――はずだった。
「よいしょ」
軽い掛け声で俺の腹に突き刺さっている腕を肘のあたりで握りつぶして切り離した。
出血はほぼ出ず平然としている。
同時に俺の体に胃袋の奥から物理的に捻じれ始めた。
「ぎ――」
喉から声にならない絶叫が漏れる。
スタンガンによる高出力の電気ショックだ。
痛みで気絶もできずただ体をよじる。
ひとしきりのたうち回っっていると――
「少し待ってくださいね」
とリーパーは俺の腹に刺さっている腕を蹴って取り払った。
同時に残った片手で腹にあいた穴を手当てし始めた。
「な……んでだよ」
そこでリーパーは不思議そうに首をかしげる。
「先ほどあなたも気づいてましたよね」
一呼吸おいて続きの驚くべきことを話す。
「殺すつもりはありませんよ」
胸の中で毒づきながら納得した。
予測させないために大けがはさせても、殺さない、死なせない。
そのように動くことで未来予測の裏をかいていた。
むしろ大けがをさせて戦線離脱させることを目的にしているのかもしれない。
「便利な頭だな」
「どういたしまして」
俺の服を割いて作った包帯での手当てが終わったのか蹴り飛ばした腕を拾って切断部に押し当てるようにしてくっつけた。
手当てが素早く終わったのも元からそのつもりで手加減した攻撃だったのだろう。
視界の端の時計をみる。
「手当てしてもらって悪いんだが――」
俺たちは倒すためではなく、足止めの方がメインの任務だった。
そして時間だ。
「来るぞ、お前らを倒す本命が」
それを口に出してあらかじめ決められた通り、全力で撤退する。
その瞬間に猛烈な爆風が発生し煙幕が払われる。
それは間断なく行われる砲撃だ。
続いて遠くから重々しく響く重低音が連続する――
「戦車が展開できないところを選んだんですが、なるほど思い切ったことしますね」
水平線の向こうから連続して砲弾が飛んでくる。
「艦砲射撃とは」
艦が所定の位置までつくまでの時間稼ぎと足止めが任務だった。
空に上がれば林に展開した部隊が銃弾の雨と対空ミサイルで叩き落とし、磯に居る限り絶え間ない砲弾で攻める。
艦砲射撃とはいっても命中精度はアシストフレームに乗せられた予測システムの大型版がのせられているらしいので飛躍的に向上している。
「よしっ!!」
水平線のかなたの艦へはプラズマ砲じゃ狙えない。
曲射できる実体のある砲弾だからこそ狙える。
我知らずガッツポーズをする。
手当てをしたリーパーには悪いが、これで詰みだ。
と思っていたら、視界の端に何かが見える。
被っていた装置を脱ぐと見えたのは――
「雪……だと」
五月も近いときにこれは異常だ。
その降る勢いは増し続ける。
「おいおい何が起きてんだ」
と誰に言うでもなくぼやくが、その声には俺自身わかるほどの動揺が含まれている。
が、そのつぶやきは雪が降る中に吸い込まれて消えた。
明日も頑張ります。




