卯月廿六日-6
間に合いました。
「山上君と淡雪ちゃんは楽しんでいるようね」
アメリカ軍基地の人の少ない通りでアメリカ側から仲介役に来た人物と立ち話をしている。
といってもそれぞれ壁を背にして挟んでの話し合いだ。
お互いにとってきわどい話し合いになる可能性があるための予防策だ。
「あんたが来ても怪しまれない口実を作るのに苦労したよ」
「食事会ならば私が呼ばれてもおかしくないからね」
小さく笑い。
壁によりかかるようにして体重を預ける。
わずかに開けられた採光用の窓から独特のにおいがする。
「あら? 加熱式のたばこ?」
「ああ、ニコチンがどーとかタールがなんたらって話でな」
ふわりと白い煙が窓から洩れる。
一吸い分ほどたって、向こうが口を開く。
「どこもかしこも禁煙禁煙って面倒な話だよ」
「私は吸わないのでノーコメント」
向こうは軽く鼻を鳴らして。
「そりゃいい、こんなものでも吸わなきゃならん環境は糞だからな」
「税を余計に払っている愛国者とでも言うのかと思いたわ」
小さな笑いが向こうから聞こえる。
「税の大小じゃ量れるもんじゃないだろ?」
そこで一呼吸分ほど時間をおいてーー
「成したことでしか示せない」
「そのような面はあるかもしれないわね」
互いに苦笑に近い笑いをあげる。
タバコを吸い終わったのか煙が絶えた。
「まずそっちの話を聞きたい」
「淡雪ちゃんが作った三次元プリンター工場の制御が私たちだけで出来るようになったわ」
息を飲むのが分かる。
「それで?」
気の無い振りをしているがそんなものはハッタリだ。
アシストフレームどころか図面さえあれば無誘導爆弾を超精密爆撃が可能にするキット、爆弾そのものを作り出した設備が気にならないはずがない。
しかも実用に耐えることが出来ると実証した。
問題は結局淡雪ちゃんを介さないと使用できない事。
残らされたとしても使用できないならただのガラクタだ。
しかし、それが制御できるということだけでも極めて大きな成果だ。
ゆっくりと壁の向こうの相手は考え込んでいる。
結局頼んでいた話をどうするのかということだと思うし、正直その内容を漏らしたら厳罰が下りかねない内容というのが考えあぐねている理由だろう。
なら少しサービスだ。
「制御マニュアルは今私の手元にあるわね」
「っ!?」
息づかいだけでかなり心が揺らいだ事が分かる。
淡雪ちゃんの三次元プリンターは地面に固定されている訳でも特殊な電源を必要としているわけではない。
即席の地下工場から運び出して、材料があればすぐにでも量産に移れる。
その三次元プリンター自体が三次元プリンターで作られたのでかなり大規模な工場化も視野に入る。
相手は覚悟を決めたのかある話をする。
「あんたが言っていたブツだがアメリカ軍は確保していない」
「なるほど」
色々と話をした結果、いい加減な話をするのはあり得ない。
この手の仕事では騙される方が悪い。
しかし騙したら信用は一切なくなる。
信頼関係と言うには歪で異常な関係性が求められる仕事だが、意図的に騙すのは基本的には得策ではない。
やるなら徹底的にだ。
「お前、そこで何吸ってる!?」
怒声が向こうから来る。
「ヤベッ、ここ喫煙所じゃねーわ、これ頼む」
と言って加熱式タバコのケースを窓の隙間から落としてきた。
「おめー!! 何隠した!? 待ってろよ」
とドタドタ足音をたてて離れていく。
落とされたケースはよくあるUSB端子によって充電するタイプだ。
ごく自然に手にとり懐に入れる。
回りに見えないように私のスマホとケースとを変換端子を噛ませて繋ぐ。
スマホを操作してーー
「思った通りね」
中に圧縮されたファイルが入っていた。
それらをまるごとスマホに移すよう操作する。
中身が空になっていることを確認してコードを引き抜き何食わぬ顔で食事会に戻っていった。
明日も頑張ります。




