4月26日-8
何とか間に合いました。
「疲れた」
結局春らしい淡い色合いの上下にダークグレーの薄手のコートだ。
はいている靴も変えて革靴の様に見えるものだ。
ちゃんと鏡で見たわけではないがほどほどに軽やかな雰囲気がある。
いわれて着せられてたが、なかなか気に入った。
ただ、正直考えていた以上に費用がかさんで全然手が届かない額になっていた。
だから淡雪がお金を出したんだが――
「店員の生暖かい目が痛かったなぁ」
覚悟をしていなかったとはいえ甘く見ていた。
立て替えてもらった形にしたから何とかしないと思い沈み込んでいると――
「お待たせしました、奥谷さん」
と店から淡雪が出てきた。
薄手のカーディガンと薄い黄色のカットソー。
黒い七分丈のズボンに落ちついた色味の靴を履いている。
髪はくるりとまとめているようで活動的な印象だ。
「時間もそこまでないのにわがままを言ってごめんなさい」
「いや、いいよ、待つのも嫌いじゃないし、淡雪がおしゃれするの好きだし」
その言葉に淡雪は恥ずかしそうに顔を伏せる。
その様子を楽しみながら手を伸ばす。
その手を淡雪が握り返したのを確認して散歩がてらそのまま歩く。
と、そこで淡雪が不思議そうな顔をする。
「あれ?」
「ん? どうした淡雪?」
その目は俺の手元に向かっていて――
「温かい!?」
何を当たり前な。
と思って、見えたのは金属の手だ。
さっきまでの店では店員の前で脱がなかったのでそこまで目立たなかったが、考えてみれば今の俺の両手は金属製だ。
大きな不便がなかったので忘れていたが生身ではない。
そんな腕に体温が戻っており、感覚も戻ってきていた。
「治ってきているんだな」
「朗報ですね」
と笑顔を浮かべて視線を交わし合う。
そうしていると温かな日差しがさす河川敷に当たった。
取り付けられた階段を上った。
すると視線の先には破壊された橋が見えて、工事のために足場が組まれている。
「ある意味で始まりの場所ですね」
「ああ」
二人でゆっくりと小高いそこを歩く。
とくに何かを話すこともないが、ただ二人でゆっくりとした時間を過ごせることを噛みしめている。
しばらく歩いているとある物に気付く。
太陽の形をした黄色い花だ。
「タンポポですね」
歩きやすいように舗装された河川敷。
その路面のひび割れにタンポポが一輪咲いている。
逆境ともいえる状況でも花を咲かせる姿を見て、しゃがむようにして覗き込む。
「こんな状態でもしっかり花を咲かせられるんだな」
「強いですね」
しみじみと二人で言葉を交わす。
ふと気づくとそろそろ向かわないといけない時間だった。
だから淡雪の手を取り――
「いこうか、そろそろ時間だし」
「そうですね、よろしくお願いします」
風がタンポポの問題にならないようにある程度離れてから空に飛びあがった。
明日も頑張ります。




