4月26日-4
間に合いました。
巨大な石の鳥が消滅するまで見届けてから淡雪に連絡する。
建前は報告と穂高さんの指示を仰ぐためだが淡雪の声を少しでも聞きたいからだ。
数コールもしないうちに淡雪が連絡に応じた。
「奥谷さん」
この時点で少し声が弾んでいるのがわかる。
淡雪も心待ちにしていたらうれしいと思いながら報告する。
「穂高さんに報告してほしいんだけど、御嶽山の怪物は倒したって」
「わかりました、穂高さんは席を外しているので後で報告しておきます」
なので続けて話をする。
「じゃあ、このあと向かう場所と買って話は出てる?」
「今ごろはほかの人――アシストフレームの実践投入も兼ねて試してもらっていますね」
あまりに静かな口調だったので聞き流してしまいそうになった。
が、かなり驚く内容だったので聞き返す。
「え? 他の場所にも同時に出ているの!?」
「ええ、豪雪と豪雨です」
一呼吸もしないうちに資料が送られてきた。
それは自動で展開される。
「……あ、片方は普通に支援なんだ」
「ええ、二度目ですが季節外れの豪雪で分断された自治体への支援ですが……」
そこで一度言葉を切って、何かを言い淀んでいる様子だ。
「というのも立て続けに起きるというのがありまして」
資料をスクロールさせると一年おきに豪雪が起きている。
「うわぁ……」
思わずおかしな声が出てしまった。
でも、こんなに頻繁におこるなら一度完全に行えばいいという物ではないと思う。
しかし、一週間近く孤立することになるのでそれも見過ごすことはできない。
なので疑問に思って説明を求める。
「なら支援って何をしているんだ?」
「幸い少し前に豪雪があったのでその時に雪の対策グッズを倉庫から持ち出していた人が多かったので、以前よりは混乱は広がっていないので今のところはその自治体の職員が雪かきも難しい年配の方を避難所にせっせと避難させている所です」
と言って視界の端にマップが映されて赤と緑に塗り分けられている。
おそらく赤が避難が完了していない地域で、緑が完了したところだろう。
全体で見るとまだ八割が赤だ。
「この豪雪に怪物の類が出ているって話は?」
うーん。
と少しだけ悩ましそうに声を漏らして。
「今のところはないですね、広い範囲に異常な寒気が流れ込んで発生しているだけのようですね」
「という事はいまは非難が終了するまで待てばいいだけか」
「立て続けに起こる異常気象などで不安はたまっているようですが大きな騒動に至る様子はないですね」
確かに毎日のように大きな事件や事故、災害が起きている。
そんな状態でも落ち着いて行動をしている人が多いらしい。
「いや、むしろもうあきらめているのかもな」
「それは――」
淡雪はそこでいったん言葉をきって。
「ないと言えませんね、私たちからしたらおそらく四月中いっぱいだと思っていますが、そんな見通し立っているはずないですし……」
「だよなぁ」
ぼやくように言葉を漏らす。
もう一週間は切っているが日付が進むほど激しいことが起きている。
解決しても解決しても進んでいる感覚がない。
無力感、というわけではないが少し不安になってくる。
「最悪ノスタルジストをどうにもできなくても、令和への移行が終わればそれで終わりですから」
終わり。
その言葉が意味するのは仕事が終わってこの世界でこれからは自由に生きてもいいという事なのか、それとも淡雪の命も終わりなのか……
以前聞いたときは道具だからという理論で話していた。
今聞いたらその言葉は変わっているかもしれないが、今でも同じようなことを言われたら結構こころにくると思う。
なので踏み出すことができずに、終わりという言葉をながしてしまった。
直接話していたなら顔色からうかがうことができたかもしれないが、会話のみだとどのような感情を込めて話したのかは分からないし。
そもそもその言葉自体を意識せずに話した可能性も高い。
と思っていると、向こうから不安そうな声が聞こえる。
「あの奥谷さん? どうしました?」
その声でようやく気を取り直す。
「いや、何でもない」
できるだけいつも通りの声を作って心に決める。
もし、そうなったときにこっちに残りたくなるよう精一杯の思い出を作ろう。
無理を通せるかもしれないからだ。
もし、そうなったとき別れが思い切り悲しくなるようたくさんの思い出を作ろう。
思い出を懐かしむうちに悲しい気持ちが洗い流せるように。
そう考えて淡雪の声を頭に刻むような真剣さで耳を傾ける。
明日も頑張ります。




