卯月廿六日-5
間に合いました。
ゆっくりと今までの行動を口に出して確認していく。
「ノスタルジストの五人はいつの段階で未来からやってきたのかはわからないわ、でも確実にわかっている仕業を挙げると高エネルギーになる結晶を収穫に姿を見せたとき」
ここで手元のメモに目印として丸を描く。
そして覚えている限りの起こした現象を描いていくが。
「台風に地震に何でもありね」
「そうですね、リソースの管理がどうなってるかちょっと想像したくないです」
そう、広範囲で大規模な災害を何度も起こしている。
でも――
「使い捨てにせずに新たに組み込んだ戦力なんてたった二人、ちょっとアンバランスだと思わないかしら?」
「言われてみれば確かにそうですね、必要だからやったにしては大規模すぎる気がしますね」
特に今日の成田で起きたテロ集団は数をそろえるのにうってつけの上に普通の警察官相手には一方的に虐殺できるだろう。
なにか条件があるにしろ、自由に動員できるならマイナーチェンジした汎用戦闘員を用意すればいいのにそれも行っていない。
「そういうことね、今日の成田の赤頭巾みたいな存在も急に湧いてきたとしか思えないの」
だって。
と言いながらわかっている事件の推移を書き出す。
すると赤頭巾が最初に現れた場所は滑走路だ。
だがリーパー達は出発ロビーにまず行っていた。
そこまで話して一度口を閉じて淡雪ちゃんに話を振る。
「空を飛べるノスタルジスト達ならそこまで遠いと言える距離ではないけれど、すこし離れすぎていると思わない、そもそも滑走路に送り出す理由なんてないわ、むしろカメラに映ることでノスタルジストが訪れたから赤頭巾が現れたように見せるためかもしれないわ」
「うーん、それはそうですけど」
向こうの淡雪ちゃんは少し悩んでいる様子だ。
違う視点からの意見は大切なので言葉の続きを待っていると――
「かもしれない、というのだけでは弱いと思います」
「ついさっきまではそう、ただ確たる証拠があるとするなら話は変わるわ」
全体的にアンバランスなのと、怪しいと思える。
その程度でしか言えなかったのが証拠がある。
「逃走に使ったバイクよ」
「あれがですか?」
疑問が声から伝わってくる。
あのバイクが成田空港の駐車スペースに置かれた日付が重要なのだ。
「ナンバープレートから割り出した日付は四月二十二日、よど号ハイジャック事件を模した事件を起こすついでに今日のための逃走手段を用意しておいたわけね」
「……ずいぶんと用意周到なんですね」
その言葉にうなずく。
そう用意周到だった。
「ではその翌日四月二十三日はリーパーは何をしていましたか?」
「それは確か捕まって私たちと一緒に東日本大震災の対処に……あれ?」
その時は淡雪ちゃんがハッキングを仕掛けて嘘をつくことができなかった。
となるとあの時にはすでに今日成田空港への襲撃計画を立てていたという事になる。
「さて、あの時のリーパーはなんて言っていましたか?」
「おおまかにいうなら、もう他のメンバーは私の指示に従っていないですね」
頷く。
つまりあの時点ではその後の計画はすべてご破算になっていた。
「おかしな話じぁないかしら、しかも話では東日本大震災の対処をするために協力を申し出るつもりだった、そうよね」
「はい、確保したとき私を見てとても驚いていましたがすぐに話を持ち込んできました」
捕まる方が先だったとはいえ出頭するという事はその後の計画はご破算になるから立てる意味がないどころか、自らの首を絞めることになりかねないのでやってはいけない。
「つまり、リーパーは起こすことができなくなる計画の準備をしていたの」
一旦言葉を切って話を続ける。
「そもそも空を飛んで逃げればいいのだから逃げる手段なんて用意する必要がなかった」
「それはまぁ、そうですね」
起こすだけなら空を飛んでこっそり侵入してこっそり帰ればいい。
なのになぜかわざわざ回りくどいことしているのだ。
どう考えてもこれはおかしい。
となるとこれはあることが考えられる。
「こっそり行うわけにはいかなかった」
「こっそり行うわけにはいかなかった理由……ですか」
小さくうなずいて肯定する。
「そういうこと、これにはおそらくいくつかの理由が絡んでいるけれど、まずはノスタルジストでも平成の怪物でもない勢力が事件を起こしたことを証明することが大切よ」
「そうですね、ええとたしかリーパーは起こすことができなる計画の準備を行っていたという事ですね」
頭の中で構築した道筋を確認も含めて話す。
「そう、もしかしたらうまくできるかもという考えがなかったとは言わないですが、逃げる手段でバイクを持ち込んでいることから最初から事件を起こして逃げる、ここまでを考えていたの」
「たしかにそうなりますね、逃亡手段を用意していたので」
だったら。
と前置きをして話を続ける。
「事件を起こすだけならこっそりでいいというのは先ほど言った通りなら、何のために逃げる事まで考える必要があったのかということね、空を飛んで逃げればいいのにわざわざバイクを持ち込んでまで」
「……なるほど、空を飛んで逃げる事ができることを明かさずに逃げる事が必要だった人と一緒に居た」
「そういうことね、つまり一緒に逃げていた堀田さんのことね」
一つ一つ隠れていた謎をほぐしていく。
それがノスタルジスト達への道だ。
「偶然じゃないとするなら……」
淡雪ちゃんはそこまで話して一旦考え込んで――
「戦力補充ですか」
「それが妥当なところね」
となると。
と話の続きを口にする。
「成田空港の一連の虐殺はたった一人の戦力補充を行うためにされたのかしら?」
「さすがにそれはないと思います、あれだけのリソースがあるならもっと楽に追加の戦力を得ることができますね」
そこまで話して淡雪ちゃんが声を上げる。
「なるほど自由にできないリソースが使われて虐殺がおこなわれた可能性があるわけですね」
「そういうこと、なのでむしろ成田空港の事件を利用して戦力補充を行ったと私は考えているわ」
メモにペンをコツコツと当てながら話を進める。
「自由にできないリソースを使用して事件をおこす集団がいるなら、目的は同じでもそれは別勢力とみなせるわ」
「最初は単純に襲ってくるクリーチャーを倒せばいいだけだと思っていたのですけどね」
向こうから苦笑交じりの声が伝わってくる。
それに対して私は
「そんなものよ、単純だと思っていたことは案外複雑で、どうしようもないと思っていたことは案外一歩踏み出すだけで解決する」
だから。
と語るその声は私自身が驚くほど柔らかい。
「考えて、悩んで、でも覚悟をもって前を見ることが大切なの」
「なるほど」
淡雪ちゃんのかしこまったその声に思わず苦笑が漏れた。
「ありがとう、淡雪ちゃんおかげで相手の動きを読むための重要な要素が分かったわ」
「たすけになったのならよかったです」
そこまで話して通話を閉じた。
「ふぅ――」
背のびをして力を抜く。
ふと自分の手元に目を落とすと――
「無意識にやってしまっていたわね」
メモにはもう何を描いていたのかわからないほど字が書かれている。
それを丸めてごみ箱に捨てて、とりあえず濃いコーヒーを手に入れるためのその場を離れた。
明日も頑張ります。




