Apr. 26 2019-4
間に合いました。
さて、と思いながら連続して飛んでくる淡雪ちゃんが作った大量の球体を捌く。
接触する時間は最低限。
下手に掴むと変形させてズタズタにしてくるだろう。
その責めは思い切りが足りていないように見える。
「ふふ、キレがないですよ」
一瞬のスキを突いて踏み込み地をこするような軌道で密着しに行く。
「く!!」
淡雪ちゃん自身で構えた片手剣で突いてくる。
そこに――
「―――!!」
堀田さんを元にした物――ヘカトンケイルが割り込む。
体勢も何もかもを無視してとにかく全力で割り込んできた形だ。
淡雪ちゃんの切っ先が鈍った。
もう助けることもできないのは理解しているでしょうが、まだあきらめきれていないだけでしょう。
「それにつけ込むのは気が引けるけれど」
鈍った切っ先はいびつな人形のような体でヘカトンケイルが受け止めた。
だからそれをくぐるようにして淡雪ちゃんの胸の中心に拳を押し当てて。
「痛いわよ」
密着状態から走ってきた加速も載せた全力の打撃は、骨がきしむ音がして拳の半分ほど淡雪ちゃんの体にめり込んだ。
「か ぁ――」
肋骨ごと肺と心臓をつぶされたようなものだ。
普通ならそれだけで戦闘不能、手当が遅れたら死亡する可能性もある大けがだが――
「まだです!!」
こぶしを引いたら逆再生のように陥没した場所が治っていく。
「出鱈目ね」
思わずそんな言葉出た。
腕の損傷や火傷などで頭を悩ませているこちらとは大違いだ。
「どっちがですか!?」
その声と同時に四方から小型の杭が飛んでくる。
体の芯をずらしてわずかな距離近づいてはたきおとすようにして一本ずつ対処する。
そこに狙いすました狙撃手の弾丸が撃ち込まれていきた。
容赦がなく、見事と言えるタイミングだ。
「でも惜しい」
首をかしげて弾丸を避ける。
いい腕ですが、私を撃ちぬくには我慢が足りない。
もっともっと待って対処できない瞬間を先読みしないと届かない。
「もう余裕がないでしょう?」
そう口にしながら一歩進む。
すると、淡雪ちゃんは一歩下が――
「くっ!!」
踏みとどまるどころか踏み込んできた。
その姿に思わずうれしくなる。
もはや意地でしょうが、意地がなければ下がり続けるだけです。
ならば――
「受けるのが礼儀よね」
小手調べで踏み込んできた足を払うために地をかするような軌道でコンパクトにローキックを放つ。
それを見た淡雪ちゃんは踏み込んだ方の足をたたみ、前に身を投げ出す。
そしてそのまま前への回転につないで、逆の足でのかかと落としにつなげる。
右手を伸ばし稲妻のようなかかと落としを受けて、掴もうとする。
と――
金属を蹴ったような音が唐突に響く。
音の出どころはかかと落としの進路上だ。
宙に浮かんでいる金属の棒に直撃した音だ。
さっき捌いた杭の一部を再利用したらしい。
「やりますね」
素直にほめたのに無反応だったことに少しだけ悲しみを得た。
掴もうとしていたかかとは途中で止まり、逆に飛んできたのは私の顎を狙って跳ねあがってくるつま先だ。
空中に浮いた杭を足掛かりにして素早い攻撃だ。
下手に受けたらその手が爆ぜるかもしれない。
そこに、ようやく追いついたヘカトンケイルが真横から体当たりを行う。
車にはねられたように盛大に吹き飛ばされた。
――が、何とか体勢を立て直しこっちに飛び掛かってきた。
しかしそろそろだ。
「早く私を倒さないんですか?」
「今やります!!」
クスクスと笑いながらまだ気づいていない淡雪ちゃんに教える。
「成田空港の空にはそろそろ燃料切れが近い飛行機があるんじゃやいかしら?」
「え!?」
虚を突かれたのか驚いた顔をする。
「あ!!」
そこでようやく思い出したようだ。
成田空港の管制塔はマヒしており、おそらく滑走路に飛行機を下ろせていない。
その隙に空に飛びあがる。
小脇にナードを抱え、片手でぶら下げるようにしてヘカトンケイルも連れていく。
「それではまた今度」
と混乱しているうちにさっさと逃げる事にする。
追いかけてきてもいいが、そうしなら全力で時間稼ぎをするつもりだ。
それがわかっているのか淡雪ちゃんは追いかけてくる様子はない。
そのことに胸をなでおろしながら、とりあえず元来たホテルに向かうことにした。
明日も頑張ります。




