西暦2019年4月26日-6
間に合いました。
エンジンの重低音が木霊する通路をそれこそ瞬きがする間に駆け抜けて立体駐車スペースに飛び込んだ。
向かう先には赤い頭の奴らがいるが――
「とばしますよ」
とだけ言ってウィリー気味に前輪を上げてぶつける。
重々しい音がして顔面に直撃し、首がおかしな方向に曲がった気がする。
そのまま乗り越えてさらに先に進む。
「と、飛ばしますって程度じゃないですよねこれ」
と必死に声を上げる。
それを聞こえていないのか無視しているのかわかりませんがさらに加速した。
「もう抜けますよ!!」
つづら折りの通路を何体かのナニカをはね飛ばして出口から道路に飛び出たが――
「えっ!?」
ひどい渋滞になっており車が一切動けていない。
「一気に逃げようとして起きてしまったんだと思います」
と言いながら道路わきの細い場所に飛び出して走り始める。
しばらくすすんで――
「そして渋滞して、車を捨てて逃げる人が出る」
指さした先には誰ものっていない車が乗り捨てられている。
「そうしたら周りの車の人も乗り捨てて本格的に道路はマヒするわね」
「……もしかして緊急車両も」
背中に抱き着いている状態では表情を見ることはできない。
しかしその声のトーンは悲しげだ。
「極限状態で全体の生存者を増やすためにはその瞬間瞬間で命をあきらめる人がいないといけません」
ぽつりぽつりと話す。
その声は決して大きくはないが耳にしっかりと届く。
その言葉はここに来るまで人を見捨ててきた私に向けられた気がして体がブルリと震えた。
「どうしました?」
道路ではない道を進むという運転に集中する状態でも私の事に気を向けてこられました。
一つだけ深呼吸して気になっていることを聞く。
「そ、そういえばそのバイクはどうやって手に入れたんですか?」
「ええと」
と明確に歯切れが悪くなる。
それで察した。
「まさか――」
「持ち主がこと切れていましたので」
と答えた。
「別れた後何とかかいくぐって駐車場に向かったら、キーを握った状態でこと切れていた方がいたのでキーとバイクを拝借しました」
「よくわかりましたね」
「その方真っ赤なライダースーツをつけていたんです」
障害物をよけながら話を続けます。
「そして向かっていたと思われる場所に真っ赤なバイクが置いてあったらダメもとで試したらエンジンがかかったので拝借しています」
「そうですか」
運がよかった。
と思うが急激に歯切れが悪くなった理由が思い浮かばない。
そういえばここまでバイクの操縦がうまいのにわざわざ運転手を手配してくるまでの送迎を望んでいたことを思い出す。
そこに気付いてようやく理由が分かった。
「免許」
抱き着いている背中がビクリと震える。
当たり前だが運転技術と運転免許は全く別のものだ。
国際運転免許証を持っていたら話は変わるが、交通機関が発達した東京に来るのにわざわざ手続きをするかと言われたら疑問が生まれる。
つまり――
「いま無免許運転なんですか」
「……緊急事態と言うことで」
とどこか白々しいセリフを返してしました。
そのことに胸の内で若干頭を抱えていますと――
「そこの赤いバイク止まりなさい!!」
と前方で検問を張っている特徴的なパンダカラーの車に乗った制服姿の集団――
警察官がいた。
つまりこのままいけば無事保護されるわけで、ほっと胸をなでおろした。
明日も頑張ります。




