表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
236/359

西暦2019年4月26日-3

間に合いました。

 空港に送り届けて少し待っていてほしいと言われましたので待っていると暴徒が空港内になだれ込んで決ました。


 道路に接している場所から赤い頭の人型としか言えないモノが――


「Wraewarwqqwjkakemuyekijmakiskwsmsodq!!」


 訳の分からないことを喚きながら大量の何かを投げてきた。

 それは地面にぶつかると爆発するようにして燃え始めた。


 一瞬なにが起きたのか全く分からずに固まってしまう。

 そして、火に巻き込まれた人が悲鳴を上げてのたうち回っていることを脳が認識したころ――


「きゃーー!!」


 絹を裂くような悲鳴がして人の波に押し流される。


 私は大切なお客様であるホワイトちゃんを抱え上げる。

 身長が低いので踏み潰されて圧死する可能性があるためです。


 そうして必死に逃げまどい、気づいたらアズール様が私の手をつかんでおりました。


「堀田さん、こちらですよ」


 といって人の流れから私を引き抜くように物陰につれていかれます。


「え!? そちらですか!?」


 人の流れと逆に進むのは流石にすぐには納得できないので抗議をしますと――


「堀田さん落ち着いてください、あの方たちが向かっているのは()()()()()()()


「え!?」


 押し流されるようにして進んでいたので気づかなかったが向かっていたのは――


「あ、なんでロビーから離れる方に……」


「騒ぎは外から来ましたからね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 パニックを起こしておかしな行動をしてしまうのはよくあることと聞きますが、ここまで視野が狭くなるのは流石に驚いた。


「避難指示に来るはずの空港スタッフの方もいませんし、混乱するのも仕方ないですよ」


「面目ありません」


 頭を下げる、本来私が守るべきお客さまに助けられたのだ。


「大丈夫ですよ」


 と柔らかな笑みを浮かべている。

 それはどこか浮世離れした印象を受ける。

 まるで少し迷子になってしまった時に誰かを安心させるために浮かべる笑顔のようだ。


 しかし実際には、怒号のような悲鳴に包まれている。

 物陰から顔をのぞかせると赤い頭の存在が何かを投げているのが見えた。

 その人影は思い出したかのように同じような赤い頭のナニカを吐き出すような動きで作り出している。

 喉の奥にひりひりとした感覚がする。

 少しでも間違えたら命を失ってしまう状況には似つかわしくない。


 そういえば聞いたことがある極限状態になった人間はある種の危機感や恐怖をマヒする時があるらしい。

 生き残るための脳の機能としてあるそうだ。


「どうしました?」


「なんでもありません、早く逃げましょう」


 そう答えると私を指さして指摘してきます。


「それは良いですが、ホワイトを下ろした方がよくないですか?」


「え?」


 慌てて手元に視線を落とすとホワイトちゃんを抱えていた。

 子供とはいえ決して軽いものではないのにすっかり忘れていた。


 慌てて地面におろす。


「さて、逃げる方向ですが――」


 少しだけ考えている様子です。


「車が欲しいですね、徒歩では逃げきれない」


 言ってしまえば成田空港は周りが滑走路に囲まれているとてつもなく見通しが良い場所だ。

 徒歩で逃げたら間違いなく車で追いかけられる。


「となると近くの駐車スペースですか……」


 今私たちがいる場所は第二ターミナルの税関エリアを超えた先だ。

 この先は行きどまりだ。

 無理やり通れば外につながることは繋がるが滑走路に出てしまいかなり目立つ。


「戻るしかないですね」


 駐車場につながるのはロビーに戻らないとない。

 このまま隠れていたいがそうもいかない。


「では行きましょう」


 アズール様は散歩でもするように軽く言って踵を返します。

 その手を握ってとどめる。


「待ってください、策はあるのですか?」


「ふむ……そうですね」


 周りを見渡してある物を見つける。


 消火栓ボックスとそれにつけられた非常ベルだ。

 それに近づいて――


「これを押したら走り抜けますよ」


 と言ってボタンに指を合わせる。


 不安だがそれで混乱が起きているうちに駆け抜けるしかないのはわかる。

 だからうなずいてホワイトちゃん抱き上げる。

 それを確認したアズール様はスーツのスカートの裾を引き裂き始めた。

 足回りを動かしやすくするためだとわかるがスラリと伸びた足は若干目の毒だ。


「横抱きだと走りにくいですよ」


 と言って荷物をかつぐようにホワイトちゃんをかついだ。


「あの、お客様の手を煩わせるわけには……」


 その言葉にクスクスと笑いながらこちらを指さしました。


「膝が笑っていますよ」


 あ。

 と思う。


 確かに私の膝はかすかにふるえている。


「それに押し付けて不幸なことになったら悲しいですから」


 その言葉を聞いて静かに頭を下げる。


「お願いします」


 その返事を聞いて一つうなずいて――


「ではやりますよ」


 非常ベルのボタンを押した。

明日も頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ