4月11日-6
何とか間に合いました。
淡雪を抱いて空を飛ぶ。
音の壁を貫いて飛ぶのもだいぶ慣れたが、今日は明らかに見慣れぬものが浮かんでいる。
[『恐怖の大王』かぁ]
[定期的に小型のコピーみたいなものを投下してますが、物理的な攻撃手段ではないようですね]
空に浮かんだ巨大な球体だ。
いくら空高く飛んでも、上にあるとしか思えないほど高空に存在しているらしい。
大きさも相応にでかいらしいとしかわかっていない。
[不気味だな]
[おそらく『恐怖の大王』はそれ自体で何かやるようなものではないとおもいます]
[というと?]
すると視界に一枚の映像が差し込まれる。
それは『嗤い面』だ。
[もし『嗤い面』の行動が成功していたら、警察組織が動けない状態で連続猟奇殺人を犯す人間が大量に出ていたでしょう]
[危ないところだったわけか]
そう考えるとぞっとする。
同時に相手がこちらを見くびっていた幸運に感謝する。
[ええ、私たちも気を引き締めてかからないといけませんね]
[ああ]
そこで今更ながらの疑問を伝える。
[ところでなんで毒殺しに来た化け物はきづかなかったんだろうな? この感じだと俺も淡雪も十分探知できた気がするが……]
[山上さんが気づかなかったのは『グレイゴースト』と戦うとき死にかけた時があったと思うんですが、不運なことにその瞬間に出てきたようなんです]
[淡雪の方は?]
[お恥ずかしい話なのですが、救助者や『グレイゴースト』の処理に能力を振りすぎてしまって……]
不運が重なってしまった。
少し気分が落ち込んでしまう。
それを励ますように淡雪が重ねて通信を飛ばしてくる。
[もう二度と同じことが起きないように、あれ以来クリーチャーの出現を探知する方に常に能力を振るようにしてます]
[同じ轍は踏まないように、か]
[ええ]
気を引き締めて日本の中心地に向かった。
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針山さんがいる警察署に到着すると一人の男性が居る。
黒いスーツの男性だ。
笑っているように見える表情だが、目はじっとこちらを見据えている。
「やぁやぁ、初めまして。」
するりとこちらに近づいてきて握手を求めてくる。
だから戸惑いつつもそれにこたえる。
「うんうん、素直が一番だねぇ。」
「あなたは?」
「ごまかす気はないから行っちゃうけど、内調の人間」
「ないちょう?」
尋ねると、そのままの笑みで。
「あとから伝えるけど、実は今この瞬間数千、数万の命が危ないからすぐにある場所の復旧をお願いしたいなぁ」
「わかりました」
淡雪は即決した。
「で、どうすれば?」
「話が早いのはいい事だ――」
といって空を指さす。
「空を飛んでる飛行機との連絡が一切取れていない、何十何百機という飛行機すべてね、この自動操縦が広まった現代で管制情報もなく飛び続けるのはとてつもない緊張感だろうね」
血の気が引く。
一機だけでも数百人は乗っている可能性が高い。
その上、街に落ちたらどれくらい被害が出るか想像もできない。
「というわけで今すぐ全国の各地の飛行場と各飛行機の通信を復旧させてほしい」
「えと、では飛行場に行きます、そこからなら飛行機に直でアクセスできます」
「じゃ、これ持ってって押し問答せずに中に踏み込めるから」
と言って一つの封筒を渡してくれた。
そこで人の悪い笑みを浮かべて。
「中は見ない方が良いねぇ」
「あ、はい」
おとなしく納得することにした。
今必要なのはとにかく急ぐことだ。
「まずは――」
「羽田です!!」
言うが早いか羽田に向けて飛びたった。
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混乱がもうかなり広まっている空港にたどり着いた。
離発着はおろか様々な機能が停止して、係員に詰め寄ったり、必死に電源がつかないか試している人など様々だ。
空調も動いていないところがあるらしく、疲れ始めている人が居るようだ。
暴動一歩手前だが、何らかのアナウンスすら不可能な状態だ。
どうしようかと空で迷っていると、淡雪が一番目立つ建物、管制塔を指さした。
「せっかく紹介状らしきものがるんですから、それに頼りましょう」
「だな」
そうと決まって行動したら早かった。
迷彩を解いて窓を叩いたら、中が大騒ぎになった。
が、渡された紹介状らしきものを渡したら偉い人まですぐに回されて、管制塔に向かう途中で搾られたがかなり手早く管制室に入れた。
「とりあえずこの空港の機能を回復させることができるって話ですが……」
見た目は未成年と怪しいロボみたいなのだから仕方がないと思う。
が、淡雪はあっさりと。
「とりあえず、空港内の連絡と空調は復旧させました」
「は?」
と言っている間に光が消えたままだった様々なディスプレイに光が戻り、空調が起動して心地よい温度の風が出始めた様子だ。
「どうやって――いや、今は良いです。 その調子で管制システムを復旧させてください」
「わかりました」
といって淡雪は目を伏せる。
と、俺に手招きしたので近づくと両手をこちらに掲げる。
それは抱き上げることを要求するポーズだ。
周りからちょっと場違いな行動に驚愕する雰囲気がわかる。
が淡雪はどこ吹く風で言い切る。
「そちらの強化外骨格の電子頭脳も使いたいのでできるだけ近くにお願いします」
「あ、あぁ」
言われた通り抱き上げる。
と、こちらの目を覗き込むように頭を固定して。
「失礼しますねー」
額を押し当ててきた。
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と、目の前がぼんやりと明るい空間にいた。
「ここは?」
「ネットワーク上の情報を可視化したものですね」
隣からささやくような声が聞こえた。
普段より髪がきらめいている淡雪が居た。
服装は学校の制服だが、周囲にはカードが何枚も浮いている。
とても幻想的な風景でいいものを見せてもらっていると思うが疑問が浮かぶ。
「強化外骨格の頭脳だけなら別に俺に見せなくてもいいんじゃ?」
「あの、ですね」
すこしだけ言いづらそうに目をそらすが。
「山上さんの脳は強化外骨格の電子頭脳で補助しているのです」
「ここに来てすごい事をばらされたような」
「あくまで補助しているだけなので、『グレイゴースト』戦のように丸ごと崩されると死にます」
違和感がなかったから気づかなかったが結構危ない状態で生きていたらしい。
「と、とにかく電子頭脳も使用しているので、それにつられて俺もこの世界を見てしまっている、と」
「そうなります」
そしてどこかを指さす。
そこは黒い靄がかかったような状態だ。
「あれの掃除が当面の目標です」
「へぇ、道具は?」
というと宙に浮いていたカードが裏返りモップのようなものが生まれる。
同時にもう一枚裏返り、いつも使っているあの剣が生まれる。
「掃除は私が、山上さんはアレ――」
といって空を指すと、蜘蛛のような多脚生物が降ってくる。
「取り返されていることを察知して攻撃用を投入してきたみたいです」
「わかった、あれを相手すればいいんだな」
「お願いします!!」
明日も頑張ります。




