西暦2019年4月26日-1
間に合いました。
本日の業務を始めてしばらくしたら、チーフから呼び出しを受けた。
何かあったのかと不思議に思いながら呼ばれた先に向かうとチーフが若干かしこまった様子で立っている。
「よく来てくれたな」
「呼ばれたら向かうのが仕事ですから」
と返すと軽く頭を下げてきた。
「最上階に宿泊されているお客様がいるのだが、誰か来てほしいらしい」
「……チーフだとまずい状況でも?」
すると言いにくそうな表情で答える。
「全員年若い女性の方でな、男の俺が向かうのも少し気が引けてな」
「なるほど」
ある意味納得した。
チーフは心配りの達人だが少し気が回りすぎるところがある。
と思っていたら――
「それにお前になら任せられると思ってな」
これだ。
私がもらえると嬉しいと思える言葉を投げてくれる。
その目は私の事を完全に信頼しており、それ以上の感情は見て取れない。
そのことに若干落胆するが気づかれる前に振り払う。
「任せてください」
短くだがはっきりと返答して最上階にしか通じていないエレベータへと向かう。
外とは遮断されたように静かな空間の中で静かに考える。
このホテルの最上階はひっきりなしにお客様が宿泊されるわけではないが、それでもそれなりにはお客様が入られる。
しかし、今日宿泊されているお客様は数週間単位で宿泊されるお客様は稀だ。
若い女性たちという話だが全く想像できないので内心おびえながらただ待った。
しばらくすると音もなくエレベータが停止し扉が開いた。
中に入ると小部屋になっており正面にはカメラ付きのインターホンと重厚な扉がある。
「よし、と」
インターホンを押して――
「コンシェルジュの堀田です、御用を伺いにまいりました」
しばらくすると、映像がオフラインだが返答があった。
「今鍵を開けますので入ってください」
「かしこまりました」
鍵が開いた音がした。
見えないかもしれないが一礼をしてノブをひねり押し開けると――
妖精がいた。
「え?」
思わず声を漏らしてしまう。
よく見ると違う、小学校に低学年当たりの年齢の少女だ。
ただ一瞬妖精だと勘違いしかけた程整った容貌をしている。
柔らかな光を浴びてソファーに座っている姿を色で表現するなら白だ。
それも最高級の白磁がもつ白だ。
アンティークドールのように小さくバランスよくまとめられた体は一目で高級とわかる服に身を包みこんでいる。
銀で引いたような髪はかすかな風に緩やかになびき、ハーフアップにされた髪によって細いうなじがあらわになっている。
少女は一瞬だけこっちを見てすぐに視線を手元に戻す。
手元にもっているのは銀色に輝くパズル――知恵の輪だ。
見たところ明らかに大人向けの難易度で小学生が遊ぶ難易度ではないが――
「ん」
とあっという間に解いてしまった。
「え?」
あまりに鮮やかに解いたので目を疑う。
すると奥から一人の女性が現れた。
「堀田さんお待たせしてごめんなさいね」
「こちらこそもうしわけ――」
と言ったところでセリフが途切れる。
深い藍色のスーツを着た女性がそこに立っていた。
不思議そうに小首をかしげるその顔は柔らかな曲線で構成されてみた人を安心させる顔をしている。
立ち姿は柳のようにしなやかだが、芯がスッと入っているようにブレがない。
丁寧に編みこまれた髪は滑らかな光を返す若干の青が入った銀だ。
少女が妖精なら彼女は女神と言ったところだろうか?
などと思っていると――
「おばさんようやく来た」
「あのねぇ、お姉さんとよびなさいって言ってるでしょ? ホワイト」
困ったような顔でホワイトと呼んだ少女に注意する。
ホワイトはそれなのに女性に近づき、私から隠れるように向こうに回った。
まるで女性を盾にしているようだ。
「はーい、アズールお姉さん、でもおかあさんは妹だからさっきみたいに言えって言っていたよ」
「もぅ、姉さんはそういうと頃があるんだから」
と苦笑に近い表情で話している。
そうしてこちらを向いて頭を下げてこられた。
「ごめんなさいね、お見苦しいところを見せてしまって」
「あ、いえ、お気になさらず」
「そう? ならお言葉に甘えて」
といって柔らかく微笑んだ。
そして強く思った。
チーフと会うことがなくてよかった。
と。
会ったら間違いなく美人へのハードルが上がるから。
と仕事中に思うべきではない思考が浮かんでしまった。
明日も頑張ります。




