Apr. 26 2019-3
間に合いました。
「はい、これでさっぱりしましたね」
「……疲れた」
若干ばてかけているナードの白い髪をタオルで水気を吸い取る。
後回しにするとナードはどこまでも後回しにするのでそっちを先に行う。
私はバスタオルを体に巻いただけと非常に無防備だが仕方がない。
「はいはい、もう少し待ちなさい」
「はーい」
おとなしくしているうちに世話を進める。
外見へのメンテナンスは基本的に行わなくてもいいが、定期的に行うにこしたことはない。
身体の水気をふき取り、髪を梳りながら乾かす。
「ぉぉ」
とナードが驚きの声を上げる。
お風呂に入る前までは若干へたっていた髪がフワッとした仕上がりになった。
「体格が小さいのでスキンケアとうがいらないのはちょっとへこみました」
どうせなのでとトリートメント以外も徹底的にやろうとしたが、密に詰まっているので私ほどケアがいらないというのは考えてみれば当たり前ですがちょと心に来るものがあった。
「ん、らくちんなのは良い」
「まぁいいでしょう」
と若干肩を落としながら自身の入浴後のケアを行う。
新しいタオルを手に取ったところで――
「待ちなさい、ナード」
声をかけたナードの手には着ていた服が握られている。
着たきりだった服だ。
さすがに少し鋭い声が出た。
「ん?」
ナードはこちらを向いて小首をかしげる。
あらかじめ用意しておいた下着と着替えを指さして。
「着替えを用意してあるんですから新しいのに着替えなさい」
「……はーい」
言われたことには素直に従うので苦労はしない。
しかし、言わないとしないので少しだけ悩ましいところがある。
さすがに着替えは一人でできるので大丈夫らしくそこまで手間取っている様子はない。
手早く私はいつもの格好になる。
「まったくこれから出かけるのですからちゃんとお洒落しないと」
表向きは富豪の娘たちなので妙な格好をしていたら怪しまれる。
やりすぎると悪目立ちするのである程度でいいが、ナードがしていた格好は流石にまずい。
「できた」
と言ってその場で一回転する。
白を基本にしたワンピースで、膝丈のスカートから見える足はワンポイントの刺繍が施されている。
膝丈の裾と袖口はレースがあしらわれており目立たないが手の込んだ逸品であるのがわかる。
人形のようにかわいらしい外見のナードによく似合っている。
続いてナードに手招きして呼ぶ。
「なに?」
と言いながら素直に来たのでヘアアレンジを行う。
普段は自分自身の髪をいじるしかないので、他人の髪をいじるのは久しぶりだ。
「どうします? ときいても無駄ですか」
「うん」
頷かれたので若干落胆しながら、衣服を格納している所からリボンを取り出す。
微かに青が入ったリボンだ。
少し悩むが両サイドの髪を軽く編みこんでいく。
真ん中あたりで後頭部の髪とまとめてヘアクリップで軽く止めて――
「んー?」
鏡を見ながらボリュームやバランスを確認しながら位置を決めてリボンでまとめる。
「どうかしら?」
「いつもと違う」
若干ずれたその感想に軽く吹きだしながらリビングで待つように指示をする。
「あ、これから出かけるので汚れるようなこと、特にお菓子やジュースを飲んだりしたらダメですからね、カロリーが必要ならアルミパウチに封入されたゼリータイプの高カロリー飲料ですよ」
「はーい」
と答えながらスリッパをパタパタ言わせて去って行った。
「さて、私も気合を入れて本格的におめかししますか」
取り出した化粧品などを見て思わずため息をつく。
置いたときの雑多な音が、まるでナードと違ってこれだけ必要だと言っているようだ。
「人間の女性が若い子と比べたときの気持ちってこんな感じなのでしょうか?」
と思わずつぶやいた。
明日も頑張ります。




