Apr. 26 2019-1
間に合いました。
アメリカ軍と淡雪ちゃんからの追跡から逃げきって次に潜伏している場所は都内のいわゆる高級ホテルだ。
その中でもワンフロア丸ごと客室とした最上位の部屋をとってある。
向こうのおひざ元に近い場所だからこそ探索の目は薄い。
特に昨日は都内で大騒ぎを起こしていたのでなおさらだ。
高層階の窓からの眺めを見ながらルームサービスで頼んだ紅茶を片手につぶやく。
「ホテル暮らしは楽ですねー」
お金は捨てるほどあるので頼めばサービスが受けられるホテルは本当に楽だ。
調理や洗濯、掃除などの家事は嫌いではないがたまに楽をしたいときがある。
「さて、ほかの人の様子はどうですかね?」
とつぶやいて他の人間の様子を見に行く。
まずは中々まずい体調になっている橘君だ。
橘君に割り当てられた部屋に入るとまず感じるのは濃い血の匂いと――
「ゥゥゥ」
という獣のような低い唸り声だ。
なぜなら部屋は真っ暗になっており、扉から光が届かない暗がりに橘君がうずくまっているからだ。
口の中に手りゅう弾を放り込まれて顎を中心に吹き飛ばされたせいで強化外骨格を脱ぐことができなくなった。
鼻から胸にかけて出鱈目に溶接されたようになっている。
血の匂いは呼気に含まれているせいだ。
「橘君、調子はどうですか?」
「ァアゥ」
明瞭な発音もできなくなっているようで内容が聞き取れない。
しばらくする金属が割れるような音が響いて、口のあたりが無理やり開く。
「問題ない」
と機械音で返答してきた。
おそらく入力した文章を読み上げさせているのだろう。
「何か欲しいものはありますか?」
と、そこでのたうつように立ち上がり――
「記憶だ!!あいつの――忘れてはいけない誰かの記憶だ!!」
そのまま私の首に手をかけようとしてきたので――
「はい、落ち着いて」
と言って手をつかみ、引き倒す。
あまり強く叩きつけると下の階の迷惑になるので、あくまでやさしくだ。
「その記憶がどうしても欲しいですか?」
「ゥゥゥ」
自身の口でうめきながらうなずいている。
そもそもが無茶な改造の上に、度重なる肉体的精神的ストレスを無理やり誤魔化しているせいで色々ガタが来ている。
あまり無理をさせるのも良くないので言いくるめることにする。
「思い出すのが辛いから忘れたということでしょう?」
「そんなわけあるか!!」
とっさに強化外骨格のスピーカーの音量を下げることで周りの迷惑にならない程度の叫びにできたので胸をなでおろす。
「そんなわけがあるかと言われましても、忘れてはいけない人だから忘れたという言い方もできるのでは?」
こんなもの詭弁どころかまともな理論ではない、オウム返しをしているようなものだ。
ただ何か思わせぶりなことを言ってけむに巻いているだけだ。
でも――
「それは……」
トーンダウンし明らかに沈み込んでいる。
肉体的精神的に弱くなっていると無茶苦茶な理論でも言い切られると飲み込んでしまう。
あと一歩だ。
「思うことはあるでしょうが今は時間が必要でしょう?」
手を取り立ち上がらせる。
「今は目の前の敵を倒すべきでしょう、全部終われば何か思いだすかもしれませんよ」
「ゥゥゥ」
頭を抱え、またうずくまり始める。
率直に言って決していい状態ではない。
でもあと少し持てばいいのでとりあえず放置しておいて問題はないと思う。
そう考えながら次の部屋に向かった。
明日も頑張ります。




