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4月26日-1

間に合いました。

 日付が変わったころに淡雪が詰めている場所にたどり着いた。


 と言ってもここがどこかということはわからない。

 途中で目隠しされて、淡雪によるジャミングが入ったためここがどこかの地下であることしかわからない。


 小さめの教室位の部屋に三次元プリンターがひっきりなしに動いている。


 それの制御を行っている淡雪に話しかける。


「三次元プリンターで作った部品で十分なんだ」


「いえ、これは製造装置の部品の製造装置ですね」


 言われている意味は分かるがその理由がわからないので聞き返す。


「あれ? 直接作らないんだ」


「以前なら可能だったんですが、今はかなり難しいので精度を出せる製造装置を作るところか始めてます」


 へぇ。

 と話を聞きながら静かにたたずんでいる。


 機械が間断なく動く控えめの音だけが満ちた空間。

 殺風景と言ってもいい部屋だが、ただ一緒にいることができるということがなかなかなかった。


 ふと淡雪の方に目を向けると、何かを考えこむようにじっと前を見ている。

 真剣なその表情と透き通るような瞳に目が奪われる。


 と、見ていたこと気づいたのかこっちを見て、花がほころぶようなほほえみを浮かべる。


「どうしました?」


「あ、うんなにを――」


 と言いかけたところで言いなおす。


「きれいだなって思って」


「ぁ ぅ」


 と、紅潮させてしどろもどろの様子だ。


 すると唇を尖らせてそっぽを向きながら――


「もぅ!! 急にそういうことを言うのは卑怯ですよ」


「卑怯でああいう反がもらえるならこれからも不意打ちするから」


 軽く頬を膨らませて淡雪は不満げだ。


 すると淡雪は何かを思いついたかのように悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「ふふん」


「わざわざ言うのはどうなんだ」


 こちらに向き直った淡雪へと身構える。

 わざとらしくゆっくりとこっちに歩を進めて――


「えぃ!!」


 と抱き着いてきた。


 が――


「反応が薄いですね?」


 と不思議そうだ。


「いや、受け止めるために身構えていたから」


「ああ、そういうことだったんですね」


 受け止め切らないといけないという思いでいっぱいだった。

 そのせいで正直抱き着かれたこという事実に頭が回っていなかった。


 が――


「でも、ドキドキはしてますよね」


「ぅ……まぁ」


 視線を下げると腕ですっぽりと抱きしめることができそうな細いからだと、人形のように整った顔が目に入る。

 そして、青みがかった宝石のようにきらめく瞳と視線が合い吸い込まれるように見つめ合う。


 改めてこの状況を意識しだすと心臓の鼓動が早くなっているのがわかる。

 だから、というわけではないが覚悟を決めてゆっくりと抱きしめる。


 一瞬驚いたように身をこわばらせるがその後力を抜いて――


「ん」


 と小さく声を出して身を預けてくる。


 そして淡雪は耳を俺の体に押し当てて。


「いつもよりかなり早いですね」


「気になるか?」


「いいえ、私も同じですから」


 と言っている淡雪の耳は真っ赤だ。


 それを確認して、互いに恥ずかしがっていることに気付いてどちらからともなく笑う。


 ひとしきり笑うと――


「よいしょ」


 と、腕の中で淡雪が身を回し正面を向いて、後ろから淡雪を抱いているような形になる。


「もうしばらくこうしていてもらっていいですか?」


「いくらでも」


 自然にそんな言葉が出てきて俺自身が驚く。

 が、不思議と納得もできた。


 腕に込める力をほんの少しだけ強くする。

 淡雪もまた俺の袖をつかむ力を込めてくれた。


 どこまでも無機質な光景しか見えないが、想いが通じていると信じれる人が今いる。

 その事実だけで胸の奥にどこか温かいものがあることを感じながら、じっと二人で工場を眺めていた。

明日も頑張ります。

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