4月11日-5
何とか間に合いました。
山上さんと別れてやるべきことは山積みだがどれから手を付けるべきか悩んでしまう。
「まずい、ですよねぇ」
電子機器の全滅というのは現代社会には致命的です。
だからまだ静かなのでしょう。
致命的すぎる故に混乱が個人間から出ることができていない。
情報化社会故の混乱の広がりが収まっているのだ。
逆にいえば納めづらいということでもある。
ともかく頭を切り替えて、無理やり通信をつなぐことができたということは電子機器が物理的に破壊されたわけではないのでしょう。
おそらくソフトの方で問題が起きていると思います。
少しあたりを見ると自動販売機の電源は付いています。
電気は来ているようです。
レンズのように見える情報制御を補助する装備を呼び出して中を調べながら、ドローンを展開し情報を探ります。
特に必要なのは病院などの人の生命にかかわる場所です。
大まかに調べたところ、とりあえず私のいる地域では人工呼吸器や心肺などの装置は動いている様子です。
しかし不可解なのは自動販売機には冷却や加温などの一部の機能のみ動いているものとすべて止まっているものの二種類があります。
「ああ、なるほど」
すべての機能が止まっていた方は深夜電力を使用する節電タイプの自動販売機でした。
ということは――
「カレンダー、ないし時計機能につながっている電子機器の機能を停止させている」
これはかなり厄介だ。
時計機能というものは大なり小なり様々なものに搭載されています。
どうにかしたいのですが個人では絶対に無理です。
「よし、こういう時は相談です」
ということで東京にいる針山さんに連絡を取る。
そのために基地局らしきアンテナにドローンを飛ばして回線をこじ開けてい――
「おぉっ!! 嬢ちゃんか!? どうやって電話をかけてきたのか聞きたい」
「電子機器のソフトが機能不全で動いてないので、それを私が代替してます」
「相変わらずだな、今はそれがありがたい、いまの日本は目と耳と神経と血管がズタズタになっていると思う」
断言できる情報がないほど何もできていない。
そのことに気付いて途方のなさに気が遠くなりかけました。
が、すぐに気を取り直して。
「今、上空のあれは無視して通信だけでも回復させないと……」
「口惜しいがその通りだ、今そこから今やってるみたいに有線だけでも日本全国で連絡取りあえるようにできないか?」
「機能停止しているのは時計機能が付いたものだけです。 昔ながらの電話なら連絡は取りあえるはずです、あとここは道端の小さい基地局のアンテナをつかってるので、そこがボトルネックで無理です」
一瞬考える間が入り。
「警察署だ、警察署は通報などを受けるために大容量の通信設備を持っている、もう顔通しはしたよな?」
「ええ、行ってみます」
「頼んだぞ」
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通信機器がまとめられた部屋の前で押し問答になっている。
「ですから、使わせてください」
考えてみれば当たり前だが、今日来たばかりの人間が混乱しているときに来て対応を求められるのは困るという状況らしい。
さて、無理やり乗り込もうとすると――
「いい、入れてやれ」
鋭い声が聞こえる。
声の主は知り合いの女性を助けるためとかで向かっていった警察官です。
片方の手が手首から先がなく、顔は出血のため青白い。
後ろには山上さんが立っています。
どうやら首尾よく行った様子です。
ともかく、先ほど声に従って扉を開けてもらえた。
「では早速かかりましょう」
「俺はなにかできることは――」
「ないですね、しいて言うならば横になって寝ていてください」
山上さんはおとなしく座り待ち始めた。
と、その他の警察官の方たちも手伝いを申し出てくる。
できることがないからだ。
「待っててくださいね」
目を伏せ、端末の一つに手を置きコントロール下に置いていく。
すぐにこの部屋の機器は私がコントロールできるようになった。
そして署内、街へと支配域を増やしていく。
その段階で理解できたのは、電子機器にこびりついた電子情報の汚れのようなものが機能不全を引き起こさせているということだ。
上の『恐怖の大王』がススを振りまくように降らせて来るのだ。
「とりあえずこれで」
同時に署内の放送で呼びかける。
建物内にいた人は驚いてスピーカーを見上げている。
「こっちで指令の割り込みは?」
「いま渡します、無線も復活させました」
「じゃぁ、とりあえず署長を呼び出して、こういう時だからこそ命令系統は大切だ」
うなづいて、署長に放送の権限を回し、呼び出した。
「あー、まぁなんだ、情報の収集と整理からだ――」
と、割とハキハキと指示を飛ばし始める。
警察は何とかなりそうなので、消防の方のネットワークに入り込む。
『恐怖の大王』の汚れを落とし、機能を復旧させてコントロール下に置く。
なんだか掃除をしている気分だ。
街一つくらいならそこまで時間はかからないが、同じような規模の街は無数にありかなり時間がかかってしまう。
だから申し訳ないが山上さんにまだ動いてもらう。
[山上さん?]
[なに?]
[スカイツリーにいきましょう、最大の電波塔を押さえることができたら大分楽になります]
[わかった]
伏せていた目を開けて、その場の全員に頭を下げる。
速さや柔軟さは落ちるが自動で巡回して洗浄を続けるAIを残す。
「では、ちょっと行ってきます」
「ああ」
という返事を聞いて、山上さんに抱き上げられて東京に向かう。
明日も頑張ります。
調子が戻らないです。




