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四月廿伍日

間に合いました。

「暑い」


 そう呟く顎から汗がしたたり落ちる。

 服は汗で肌に張り付き気持ち悪い。


 交番につけられたエアコンは最強の設定だが全く意味がないほど暑い。


 相方は暑さでノックダウンしてしまい奥で横になっている。


「ふぅぅ――」


 深く息を吐き、上着を脱いで、さらに腕まくりまでするが全く意味がない。


 そして思わずぼやく。


「まだ四月だぞ――、なんだって気温が三八度近くまでているんだ」


 昨日までは二五度行くか行かないかの気温だったが、急激に上昇した。

 暑さへの心構えすらできていないせいか熱中症で倒れた人間が続出している。


 立ち上がりせめて水を飲もうとして、流しに向かい蛇口をひねる。


「あつっ」


 気温と同じ程度の水温の水が出た。


 湯気までは出ていないが飲むのを躊躇するが――


「水分補給はしないとな」


 覚悟を決めてコップに口をつける。


「っぶ!!」


 体温より高い水分が口に入った瞬間は若干むせる。

 暑いときに飲む物ではないと体が拒絶するのだろう。


 しかし今飲める物はこれしかない。

 冷蔵庫の水分は後はアイスコーヒーくらいで汗をかいているときにカフェインは逆効果だ。

 何本かの水道水を冷やしているが、これは相方の熱を冷ますために用意している物なので飲むわ気にはいかない。


「っぷぁあ~」


 喉から食道にかけて熱い液体が下っていくのが感じ取れる。


 のど元過ぎればなんとやらで胃袋に水分が入って人心地付く。


「確か一気に飲みすぎたらだめなんだよな」


 おぼろげな熱中症対策の知識を思い出しながら、相方の調子を見に行く。


「おーい大丈夫か?」


 個室の部屋を開けると、涼しい風が――


「温い」


 しめ切った部屋にエアコンをガンガン効かせたから涼しいはずなのだが気温に大きな差はない。


 その瞬間。


「まずい!!」


 慌てて顔色を見る。


 それはゆでだこのように真っ赤になっており、何より――


「汗をかいてない」


 脇から温くなった水が入ったペットボトルを引き抜く。

 急いで冷凍室から体温よりは低い水が入ったペットボトル持ってきて脇にはさんで少しでも冷却する。


 視線は焦点がずれており朦朧としている。


「ええい、大丈夫だと思ったんだが」


 つい三十分ほど前はまだ自力であるけて、エアコンがちゃんと動いていたのは確認していた。

 なので回復すると思っていたがさすがにこれは救急車案件だ


 署に連絡を入れるが――


「なんでつながらない!!」


 叫んだらクラリときた。


 何となく理解した。


 これは異常気象なんて生ぬるい物じゃない。


()()()()()()()


 誰が?

 などの想いが湧くが急激に起きた酷暑とタイミングが良すぎる通信の途絶。

 できすぎている。


「判断は待てない」


 独断で付近の病院に連絡をする。


「よし、これで良し」


 出入り口付近の椅子に腰を下ろす。


 すると全力疾走した後のような激しい疲れがのしかかってきた。

 腰から根が生えたように全く上がらなくなる。


「なん――だ、これ」


 膝はけいれんが始まり、ひきつったような痛みが走る。


 その激痛を噛みしめるようにして耐える。


 起きていることはわかる。

 熱中症の初期症状の熱けいれんだ。


「まずい」


 急激に熱中症が悪化している。

 頭の中がぼんやりしてくる。


 何かをしなければという思いはあるが、何をすればいいかというものがすっぽり抜け落ちている。


「ぅぅ」


 誰かがうめいている。


 だからフラフラと外に出る。


 暑くて暑くて仕方がないので上を脱ぐ。


 水音がしてシャツが落ちる。


「ぅぅぅ」


 日陰でぐったりと横になり、赤ではなくて白に近いような人もチラホラ見える。


 うめき声を追いかけるようにしてまだまだ歩く。


 そうしていると気づく。



「ぅう」


 うめき声は自分自身だ。


 そう気づくが歩き出した足は止まらない。


 割れ鐘が頭の中で響くような痛みを感じる。

 視界は強い日差しの中なのにどんよりと暗い。


 吐き気と共に腹の奥の物を吐き出す。


 引きづられるように歩くと――


「attyatayyyたたうあkたちゃ」


 訳の分からないことを騒いでいる変な奴がいる。


 体の表面は火傷のようなものでおおわれている身長二メートルほどの化け物だ。

 口からはヨダレのように粘度が低い液体を漏らしている。

 目はギラギラと光り正気ではない。


 そいつの周りは吐き気がするほどの濃密な燃料の匂いで満ちている。


 それで直感する。


「お前が元凶か!!」


 発作的に腰の拳銃に手を伸ばし引き金を引いたら――


「ぐぁ!!」


 ()()()()


 両手はズタズタに爆ぜて、骨まで見えるような傷になっている。


 そこで体は限界だった。

 まっすぐ前に倒れ込むように崩れ落ちる。


「……」


 殺意に近い意思を込めてにらむとその化け物はにやにやと笑いながら口から洩れる体液をボタボタ落としてきた。

 そうしてようやく気付く。


 これは燃料だ。


「ひいひひいぃいひ」


 そんな薄気味悪い笑い声と共に、手を叩く。


 その音は金属音だ。


 そこで理解した。


「悪趣味な奴だ」


 そう毒づくと同時に火花が散って――


「――!?」


 赤い炎に包まれた。

明日も頑張ります。

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