4月25日-11
今日は少し早めに書けました。
アメリカ軍基地に降り立つ。
格好は開き直って強化外骨格を着て光学迷彩で隠れながらだ。
向かうのはもう決まっている。
「ノスタルジストの隠し部屋」
そこしか思い浮かばないという方が正しいがそこにまっすぐ向かう。
そしてそこならば逃げ道がないという言い訳を淡雪が使えるからだ。
「完全に頭が湧いてるなぁ」
と自嘲気味に笑うがそれでも足は止まらない。
聞いていた場所に向かい壁に手を当てる。
すると、特に手ごたえなく奥に押し込まれ人一人が通れるサイズの穴ができた。
地下に向かう階段があり、むき出しのコンクリートで作られており、飾り気がない。
背後で音もなく扉が閉まるのがわかる。
「ここか」
向かった先は殺風景な部屋だ。
扉すらなく通路の先に真四角にくりぬいたような空間がある。
その空間は5人も入ればいっぱいになってしまうほど狭い空間だ。
部屋には調度品らしきものはなく、唯一ある物は向かいの壁に立てかけられている様になっている石でできた大きい板だ。
大きさとしては人一人よりも一回り大きいくらいだ。
それだけだ。
隠れる場所なんて板の裏くらいだが、気配を感じない。
「なぁ――」
でも確信に近い思いがある。
ここにいる。
「淡雪、いるんだろ?」
その声はガランとした部屋にかすかに響くが何も言葉が返ってこない。
出てきてくれることを期待して呼びかけるが、姿を現さない。
はっきりと見つけない限り、おそらく逃げられる。
だから――
「いない――のか……」
がっくりと肩を落として叫ぶ。
「淡雪ぃ!!」
しかし返事は帰ってこない――
「見つけた!!」
ソコに向かって飛び掛かり手を伸ばし――確かにつかんだ。
そこで観念したのか、ようやく姿を現した。
微かに青みがかった澄んだ瞳は恥ずかしそうに目を背けている。
この手を離さない限りもう逃げないと思い強化外骨格を解く。
「どうして――」
と聞いてきたので、答える。
「会いたかったから」
と、その言葉のせいか透き通るような白い肌に朱が入る。
「え!? ちょ、そっちじゃなくてですね」
「それ以外に来た理由なんて小さい事だぞ」
そこで淡雪は掴まれていない方の手で押しとどめるように制してきた。
「なんでこんなにグイグイ来るんですか!? 落ち着いてく――」
「いやだ」
自然にそう口に出して引き寄せる。
「って、ぁ」
バランスを崩したのかこちらに倒れ込むように来た。
だから受け止め――
「っは!?」
岩のように重い。
必死に腰を落として何とか受け止め切る。
「ん!!」
何とか支え切った。
そしてそんなことをおくびに出さないようにするが――
「ぅぅ、重かったですよね」
「……いいや」
即答できなかったので気づかれただろう。
恥ずかしそうに顔を伏せながら話を続ける。
「ここに来た理由じゃなくて、どうして見つけられたかですよ」
「好きだから――って言いたいところだけど、装備を作った淡雪が忘れてどうするのさ」
と腕の中できょとんと小鳥のように小首をかしげて。
「あ、そういえば」
「音を立体的に聞けるから、妙な反射があったらわかる」
淡雪は恥ずかしそうに視線を逸らす。
「忘れてました」
今まであまり見たことがないその表情にふと見惚れる。
すると、淡雪はこっちをじっと見つめてくる。
「なんですか、不思議な目で見て」
「淡雪はかわいいなって思って」
するとまた顔を紅潮させて目線をそらしながらつぶやく。
「ぅ、なんで今日はこんなに積極的なんですか」
「会えないかもしれないって思ったからだよ」
その言葉を伝えると、かすかに頭を下げてきた。
「その、そんなつもりはなくてですね」
淡雪は何かを告げてこようとするが、先にこっちから切り出す。
「ごめん、淡雪」
「え!?」
急に謝られたことに淡雪は目を白黒させる。
「淡雪は俺の事を思っていてくれたのに、そんな思いをちゃんと受け止めていなかった」
「……だったどうするんですか」
じっとこっちを見つめるその目は先ほどまでの戸惑うような光はない。
ただまっすぐ見つめてくる。
「やるべきことを――やりたいことをやる、その時は自分の体を二の次にしてしまう」
でも。
としっかりと口に出す。
「そうしなかったらきっと俺じゃないんだ、自分自身を大切にしていないわけじゃない、俺が俺自身の想いを大切にしたいからやるんだ」
「それで私が傷ついても? とうぬぼれても良いですか?」
それはいやだ。
でもこの返事は大切なことだ。
だから――
「ああ、無視をするわけじゃない、でも淡雪に対して嘘をつくのはもっといやだ、だから正直に言う」
ほんの少しで触れあうようなそんな至近距離で見つめ返す。
「必要になったらする、そういう人間なんだと思う」
だから。
と言葉をつなげる。
「淡雪のために全力で生きる、どんなに傷ついても全力で生きて帰るよ、いつか来る別れる日まで」
淡雪は口を引き結びながら。
「ひ、卑怯ですよ、そういう言葉は」
「わかってる、でもそう思うから仕方がない」
淡雪は二の句が継げずにいるのでさらに話す。
「淡雪がどこから送られてきたかは聞いた」
「その、すいま――」
誰かに激しく責め立てられたかのようにその身を縮める。
痛々しいとも取れるその姿を、をゆっくりと首を振って否定する。
「助けてくれてありがとう」
最初に会った時、俺は襲われて、そして死にかけた。
その両方を助けてくれたのは間違いなく淡雪だ。
それだけは間違いのない事実だ。
腕の中の淡雪は段々と感情が高まっているのか震えがきている。
「でも、私とあったからという事故みたいなものだって、そして私がクリーチャーを倒すことがノスタルジストの奥的だったって」
言葉が詰まりながら淡雪は話す。
感情の震えが声にも表れ、所々で聞き取りづらいところがある。
淡雪の言葉は確かにある一面では正しいことなのだろう。
でもそれだけじゃない。
「そうだったとしても、淡雪は必死にたくさんの人を助けた、それも確かなことだ」
淡雪は嗚咽を漏らしながら、雫のように涙をこぼしている。
「感情の制御が、想いがめちゃくちゃで、何かをしたいのに、何かをするのも怖くて仕方がなくて――」
寒くてたまらないように震える体は崩れ落ちる。
覚悟を決めていたので何とか震えることなく完全に抱きしめる。
華奢だが思ったよりメリハリがあるその感触と清潔感のある甘い匂いに思わず心臓が跳ねるが必死に抑え込む。
「それでいいと思う」
「え?」
虚を突かれたように呆けた声を出した。
その時の呼気をかすかにだが感じる。
「俺もさっき矛盾したこと言ったし、それでいいんだ」
正しい事なんてわからない。
でも――
「正しいことを迷えるうちは正しいことを探している」
「正しいことを探している……」
うなずく。
「正しいはずだと決めて進むしかないけど、迷っているなら思うままに行動しよう」
「でも――」
淡雪の耳元で囁くように話しかける。
「たくさんの人が助けてくれる、何より俺は淡雪の味方だ」
「ぅ」
詰まるような声が聞こえる。
「心配も何もかも一旦胸の中に押し込んで一緒に行こう」
ささやきかけて少しだけ抱きしめる力を強める。
数呼吸分時間をおいて、おずおずと淡雪は俺を抱きしめ返す。
そして震える声で、しかしはっきりとした明るい感情を込めた声で答えてくれた。
「はい、奥谷」
明日もよろしくお願います。




