卯月廿五日-3
間に合いました。
「さすがにこの量は……」
カロリーと量重視のアメリカ軍の食事に少し辟易しながら食堂で食事をとっている。
あわただしい中午前中で事件が一旦終息したことを聞いた。
「もう十分仕事したし、出る準備を始めたほうがいいわね」
過ぎてみればここまで身を寄せる必要はなかったと反省する。
混乱ついでに色々拝借したのでおおむね成功の類だと思う。
「うーん、お暇するのは……難しいわね」
間借りしたのに挨拶もなく抜けるのは流石に問題があるので何かいい口実はないかと考えていると――
「山上君から電話?」
申し訳ないと思いながら食べきれなかった料理を乗せたままトレイを返却する。
そのまま通話していても迷惑にならない場所に移動する。
「山上君どうしたのかしら?」
「ちょっと相談したいことがありまして」
その言葉でピンとくる。
というか一つしかない。
「淡雪ちゃんまだ見つかってないのね」
「はい」
若干沈み込んでいるその声は張りがない。
なんて声をかけようか少し考えている間に次の言葉が告げられる。
「でも、淡雪が寄った場所は見つけたんです、ただその後の足取りが一人だとどうにもわからなくて」
「なるほど、それで女性の私に電話をしたと?」
「はい」
その声は少しだけ申しわけ無さそうだ。
この基地でやらなければいけないことはもうないので――
「良いですけど迎えに来てほしいですね」
「え?」
明らかにこわばった声がする。
「あ、いえ、騒ぎを起こせって意味じゃないですよ、名目上は私は度重なる混乱のせいで帰るタイミングを失っているだけなので、確実に対抗できる山上君――コードネームが装甲猟兵でしたっけ? が来れば護衛名目で帰れるので」
「なるほど、分かりました」
騒ぎを起こさずに済むという話を聞いて声の調子が元に戻る。
こういう感覚は失わずにいることは中々稀有だと思いながら話を続ける。
「それで相談したことって?」
「ああ、そうです、実は以前に淡雪と行った場所をめぐっていてですね、その中で情報収集に適した場所で――」
その言葉を聞いて脳内で二人が訪れた場所が駆け巡る。
中でも特にまずい場所が思い浮かび静止する。
「はい、ストップそれ以上はよく考えて話して」
「あ……」
そこで言葉が途切れて少し悩んでいる様子だ。
「と、少し待ってください」
微かにノイズが入る。
おそらくさっきの瞬間から偽装の会話が流されている。
山上君と淡雪ちゃんの会話を何度か盗聴しようとしたからわかる。
不自然ではない程度に不自然な雑談が行われた後で組織だった動きが起きたことが多い。
「それでその施設にフィルタリングして情報を送る装置を埋めこんでいてですね」
「え?」
思わず声に出す。
もしそれが私が思っている施設の事だったら恐ろしいことになる。
偽装をした後に話ということはかなり大ごとであることは理解していると思う。
その上で判断を下さないといけない。
利用するか、忘れるか。
その二択だ。
「……」
「どうしました?」
「山上君、この話が終わったらその装置を完膚なきまでに破壊してくれる?」
最初からなかったことにする。
様々な情報を知ることはできるだろうが、それを利用しようとなると骨だ。
そう考えると利用できない情報なんて無駄だ。
だから最初からなかったことにする限る。
「わかりました」
いつものように素直な返事をもらいほっと胸をなでおろす。
「色々省略しますが、淡雪はその装置で色々な情報を手に入れることができるはずなのに、あえて情報を絞っているみたいで、他に心当たりってありますか?」
「うーん、その話だけだと難しいわね」
うそだ。
話している施設はとにかくたくさんの情報を集めるところなので量が膨大すぎる。
だったら知りたい情報をあらかじめ絞っているなら別の所から情報をかすめ取ることを考えた方が良い。
そして知りたかったのはこの基地から向かった先の隠れ家だ。
灯台下暗しとよく言うがおそらくこの基地の近くにいる。
でもこの通信は淡雪ちゃんが聞いていないはずがない。
だったら直接言葉にするわけにはいかない。
「淡雪ちゃんの足取りいついてちゃんと検討したいから一度迎えに来てもらえるかしら」
「……そうですね、お願いします」
という返事を聞いて気づいた様子はない。
なんだかんだで山上君と淡雪ちゃんは似たところがあるから気づかれていない可能性はある。
迎えに来たらこっそり耳打ちしてヒントを出そう。
そう考えながら通話を終えた。
明日も頑張ります。




