二〇一九/〇四/二五
間に合いました。
日が昇りそろそろお昼になろうかという時だ。
場所はとある大物政治家――最もトップと言い切ってもいい人物の屋敷の前だ。
テレビでよく映るその屋敷のありさまは一変している。
「ゴキブリみたいにうじゃうじゃいるな」
移動用の大型の車両の中で呟く。
車内はかなり大きいが防弾チョッキや各種プロテクターで身を固めた屈強の男たちが座っていると手狭になる。
「アレをかき分けて最奥の要人までたどり着くのは骨だわな」
と隣の人間がぼやくがその拳はしっかり握りこまれ闘志に満ちている。
「いいか!! まずは突っ切れる奴は突っ切って、はねるガンガンはねてくぞ!!」
「オゥ!!」
最も前の座席に座っている隊長が叫ぶ。
それにこたえる叫びで車が震える。
「今こそ治安維持組織としての力を見せる時だ!!」
その掛け声と共にヘルメットをかぶり固定していく。
これと大盾で固めた突撃は人を容易にはね飛ばす。
「突撃!!」
到着後、鋭い号令と共に外に雪崩のように飛び出る。
ほかの車両からも同様に飛び出て一つの集団となってなだれ込む。
その途中で段々と陣形が向こうの集団を切り裂くような隊列に変わり――
「俺が一番槍だ!! 行くぞぉ!!」
腹の底から叫び、その興奮のまま足に力を籠める。
途中までは素通りできたが、ある瞬間に――
「こっちを見たな!!」
一斉にこっちを向いた。
それが合図だったようにこっちに向かってきたが――
「軽いな!!」
重厚なプロテクターを着こんだ、鍛えぬいた男が盾を構えて突撃したらどうなるか?
「!!?」
人を殴り飛ばす鈍い音がして一人は弾き飛ばされてもう一人が押し倒される。
その勢いのまま将棋倒しのように倒される。
「いよぉぉぉし!!」
肉を踏む嫌な感触が足裏からするが気にせず前に進む。
転びそうになった時は足を緩めて進路をずらし後ろに回って後続に任せる。
「おぉ!!」
獣のうなりのような叫び声をあげて影のような人間を弾き飛ばしながら一直線に進む。
「あとすこぉし!!」
もはや掘削に近い感覚を得ながら目的の部屋に肉薄する。
あとは目的の要人に掛けられた手錠をワイヤーカッターで切って開放したら担いで逃げる。
やることはシンプルだからこそ最後まで詰めを怠らない。
「ここだぁ!!」
扉をけ破るようにして入ると案外ガランとしている。
椅子に座りてうつむいている影のように見える人物と、悠然と立っている人影。
目的は椅子の人物だ。
「おっとぉ!!」
そこでつんのめりかけたので、すぐ後ろの奴に任せることにした。
勇み足で後ろの隊員が立っている奴に殴り掛かろうとして――
「そこまで!!」
鋭い命令が響いた。
声自体は合成音のような異様な響きをしているが――
「はっ!?」
殴り掛かったやつの動きは停止した。
それどころか俺も含めた隊員全員の動きが固まった。
「な……にが?」
上官に命令されたように一切体が動かなくなった。
それどころか――
「気を付け!!」
全員直立し、気を付けの姿勢を行う。
意思と関係なくだ。
動きが止められるだけならまだしも、最悪の想像が頭の中をよぎる。
「殴り合え!!」
その命令に従い、全員が目の前の人間に全力で襲い掛かる。
盾を持っている者は容赦なく角で狙い、ないものは素手で思い切り殴る。
「ぐぁぁ!!」
連続して何かが折れる鈍い音がした。
が、骨を折ったやつはそれを無視して殴り掛かり――
「ぁっ!!?」
激痛に一瞬気絶したように崩れ落ちかける。
が、殴り合えという命令に従い気絶から回復させられる。
俺の体は気絶しかけたそいつを襲うのに絶好の機会と判断した。
そいつのプロテクターに守られていない顎を真下から盾で思い切りかち上げた。
「っぐぁ!!」
くぐもった悲鳴と手に残る嫌な感触。
そこでさすがに相手は気絶した。
ある意味それ以上殴らずに済んだと思ったら――
「おぃおぃ、待て待て!!」
俺はそいつの頭に狙いを定めて足を振りかぶっている。
下手をすれば首の骨が無事では済まない。
「やめ――」
蹴り込むその瞬間に――
「AaぁおいあlAAA!!」
突然、命令を下した奴は身をよじって苦しみだして崩れ落ちる。
同時に体の自由が戻る。
そして拘束されていた要人も影のような姿から戻っていた。
「……」
いきなりすべて解決したその状況に事態が飲み込めない。
が、殺しかけた奴がちゃんと息をしているのを見たらその場に崩れ落ちる。
「終わったのか……いまいち納得できないが」
とつぶやいた。
明日も頑張ります。




