4月25日-1
間に合いました。
20191018 北緯と東経の桁数を間違えていたので直しました。申し訳ありません。
「――というわけで現状突入したチームと連絡が取れないわけです」
できることがないので眠った後、起きた動きが大きすぎてさすがに面食らってしまう。
場所はアメリカ軍基地の食堂だ。
アメリカ人の体格に合わせているせいか机といすが大きめなのを除けばよくある食堂だ。
今のところは人がいないので寒々しい空気だ。
グラスが結露するほど冷たい水が一杯ずつ俺たちの前に置かれている。
「ブラックスミスが死んで、代わりに在日アメリカ軍の開放ができた、そしてノスタルジストが基地に残したテレポートするための場所に特殊部隊を派遣したら通信途絶と」
「ええ、私はあくまで協力しただけですけど」
と軽く伸びをする。
その目には薄くだがクマがある。
穂高さんは一口だけ水を飲んだ。
「協力、ですか?」
「ええ、試作のアシストアーマーの学習AIの仕上げです」
その言葉にさすがに驚く。
「え、そんなことまでできるのですか?」
そこで何かを思い出したかのように表情を変える。
「私がそっち方面の専門家だって忘れてませんか?」
「あ」
そういえば物凄い才媛という話だったことを思い出す。
「まぁ、ポカが多いのでそうは見えないのはわかりますけどね」
と気の抜けた表情で語る。
「ともかくある程度めどがついた感じですね」
と口に出した。
じっとグラスを見つめている。
「どういうことですか?」
「あんまりそんなつもりはないでしょうけど、山上君たち未来の存在や平成の怪物たちとなんの改造も施していない人間とではある物が圧倒的に違います」
なんでしょう?
と視線をこちらに向けて、どこか悪戯っぽい笑みで問いかけてきた。
なので少しだけ考えて。
「硬い?」
「いいえ、ちゃんと現代の兵器でもダメージを与えることができているので違います」
指を一本立てつつ――
「早いというその一点です」
「早い?」
なんのことかわからずにオウム返しをするように聞き返す。
「反射神経といいますか、あらかじめ決めたとおり訓練に従って動く場合やあっちの想定外かつ致命打を与えた場合は撃破や制圧を行った例はいくつかあります」
ただ。
と言葉を続ける。
「相手に対応を許してしまう状況だとブラックスミスがこの基地を一人でほぼ制圧したようにほぼ確実に勝てないわけです」
そうですね。
と少しだけ悩んで口を開く。
「オセロで複数枚置けるというのが近いですね」
「そんなに違うんですか?」
穂高さんは、軽い口調で答える。
「あさま山荘の件は兵器の質の差かもしれないけど、米軍基地の件は生物としてのスペック差ね」
あくびを軽くしながら続ける。
「だから相手の動きを先読みが最優先課題なわけです、動く前に相手の動きが読めるなら反応速度の差を埋めることができますから」
「なるほど」
オセロの例を出すと相手が次に打つ手がわかるなら有利になるという理論だろう。
「でもそれだけじゃ足りないっていう想定もできていた」
「どういうことですか?」
穂高さんは右手の一本、左手の二本指を立てる。
「さっき複数枚置けるオセロっていったでしょ? つまり相手の二手目は対処できないってこと」
「ああ、だから自動で行動することが必要になるわけですね」
そういうこと。
と穂高さんは頷いた。
右手の指をグラスに滑らせるようにしていじっている。
「ロボットも考えたのだけれど、色々ハードルが高いから人に着せよう、で中の人が無駄に傷つくのは却下なのでそれでも調整することがいっぱいで――」
そこでスイッチが切り替わったように言葉を止めて。
「ま、苦労話はどうでもいい事ですね、困ったことは私は米軍の関係者ではないのでフィードバックがちゃんともらえるかが不安なわけですが――」
そこでじっと俺を見ている。
「えっと、その目はもしかして――」
「いえ、何も言ってませんよ」
と言って席を立った。
そしてグラスをこっちに差し出してくる。
「この後もちょっとやることがあるので片づけておいてくださいね」
「わかりました」
差し出されたグラスには結露したガラスをメモ代わりに五桁の数字が三列並んで最後に六桁の数字が書かれている。
そして二段目と三段目の間には線が一本引かれている。
強化外骨格の人工頭脳に記憶させて、その数字をぬぐい取るように掴んで席を立つ。
「……しょうがないか」
肩を落としてグラスを返しに向かった。
その次は示された場所に向かい何かを探すことになる。
「淡雪はどこでなにをしているんだろうか?」
そんな疑問は答える人がいない空間に溶けるように流れていった。
明日も頑張ります。




