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4月2日

投稿時間を予告できず申し訳ありません。

また分量もガタガタで申し訳りませんでした。

==〇=============================


 意識が浮上する。


「ぁ」


 息を漏らして目を覚ますと、目の前に広がるのは上下逆に見える人形のように整った顔の少女だった。

 作り物のようだが確かに人の温かみを感じる造形はかすかに目を伏せている。

 長めの青みがかった黒髪がくすぐるように揺れているのが見える。

 頭の後ろに柔らかく温かいものを感じる。

 そこで気づいた。


「膝枕、か?」


 つぶやくとうっすらと目を開けた。

 その目は吸い込まれるような蒼をしている。


「お目覚めですね」


「あ、あぁ」


 そこで笑みを浮かべてくる。

 その口調はどこまでも丁寧だ。


「色々お聞きしたいこともあるでしょうが――」


「が?」


 そこで俺のすぐ直上、彼女の腹のあたりから音が聞こえた。


 腹の虫だ。


「おなかが空きました」


「えぇ……」


 あんまりな訴えに体から力が抜ける。

 そこでノスタルジストがいたときのあの嫌な空気がないことに気付く。

 どうやら安全そうだ、と思いながら近くにコンビニがあることを思い出して。


「なんか買ってくる、命の恩人だしな」


「あの、その――ありがとうございます」


 かすかだが朱がさした、どこか恥ずかし気だが素直な表情に苦笑を浮かべてしまうのを感じる。

 膝枕に多大な心残りがあるが、何とか身を起こしながら。


「さて、少しまっててくれ――急がなきゃいけないようだしな」


「もぅ!!」


 そんな言葉を背に受け、凛としたあの姿以外の自然体への魅力を感じながらコンビニへと小走りで向かった。


==〇=============================


「……」


 まさかここまでとは。

 そう頭の片隅で考えている。


「……」


 盛大に鳴った腹の虫の事も考えてかなり多めにおにぎりやサンドイッチ、菓子パン、飲み物を買ってきたのだが、まず最初の1分ほどで男子換算二食分のおにぎりが腹の中に収められた。そして次の30秒で半分ほどの量だがサンドイッチも陥落した。そこでようやく人心地付いたのかこぼれんばかりの笑顔でチョコチップ入りのメロンパンをかじっている。

 場所は襲われた場所から少し離れた公園だ。向かいあうようにしておかれたベンチに買ってきた物を挟むようにして座っている。

 俺は制服で彼女は繊維と樹脂の中間の素材でできたメリハリが強めの体のがよくわかるタイプのワンピースだ。

 丈が短めのスカートは少し目に毒で、そこから伸びたタイツに包まれたスラリとした足がまぶしい。


「よく食べるな」


「ぁ」


 そこでようやく気付いたのか、こちらに向き直り深々と頭を下げようとして、手で制した。


「俺を助けてくれたんだろ」


「え、と、その」


 表情からすると食べ過ぎたことに謝るべきか、感謝を受け取るべきか迷っている様子に見える。

 だからこちらからたたみかける。


「この程度では命の恩は返せない」


「でも――はい、どういたしまして」


 どこか不承不承のようだがなんとかあちらの謝罪を引っ込めさせることができたようだ。

 余っている炭酸水――彼女が露骨に避けていた物に口をつけつつ一つ質問を出す。


「どこまで聞いて良い?」


 彼女は少しだけ考えて。きっぱりと答えた。


「私から説明します」


 つまり説明したこと以上は聞かないでほしい。ということだろう。

 だかただ説明を待つ。


「私はとある目的のために未来から来ました」


「未来から来たって……なるほどあの武器で納得した」


 どう考えても高すぎる技術で作られた武器と道具だ。そういわれた方が納得できる。


「といっても何かを止めろということしか覚えてないのですが」


「覚えてないって……」


「たださっきのような何かを破壊することに特化したものを持たされて送られてきたのですから戦闘だと思います」


「ん? じゃあ目的も良くわかってないのに俺を助けたのは一体」


 そこできょとんとした顔で返してきた。


「人を助けるのは人造生命体としては当たり前です、時と場合によっていろいろブレますけど」


「ああ、未来人だしね」


 そこで少しだけ悲しそうに首を振る。

 仕方がない。とでもいうように。


「未来の記憶はほとんどありませんが、私は人ではありません、そのような存在だと定義されています」


 その力ない表情に少しだけ胸の奥が痛む。

 この話題はこれ以上触れないほうがよさそうだ。


「わかった、この議論はやめよう」


「よろしくお願います」


 そこでメロンパンの最期のひとかけらを腹に収めて、ゆっくり語りだす。


「覚えているのは私が持たされている武装の使用方法と幾つかの単語くらいです」


「単語? それってさっき言っていたノスタルジスト?」


「ええ、ノスタルジスト(回史主義者)、未来への不安のため現在を連続させることを選び続ける集団です」


「あのおぞましいのがノスタルジスト……」


 その言葉に対してゆっくりと否定してくる。


「違います、人間は過去に向かえません、私のように作られた者しか過去へはいけないのです、あれはノスタルジストによる人造生命体、クリーチャー……ではないかと思います」


「なるほど」


 聞きたいことがあるが聞けないことに無理やり納得させようとすると、それを察したのか説明を続けてくれた。


「『子供は親より早く生まれない』、過去への時間移動理論を組み立てた学者の言葉です」


「つまり親に当たる存在がいないから人造生命体は過去に行けるのか?」


 と彼女は曖昧な笑みを浮かべて口をつぐんでいる。

 そこで改めて思い出す。質問をしてほしくないことがあるのだ。

 そして答えることができない、しかし彼女は答えられないことを重荷に感じてしまうタイプなのだ。


「いや、いい、すまん」


「私こそごめんなさい」


 互いに頭を下げる。

 そのことに気づいて顔を上げて、見合わせたらどちらともなく吹き出してしまう。


「くくっ、おかしな状況だ」


「ですね」


 互いに余計な力が抜けたのがよくわかる。

 なので向こうの言葉を待つことにする。


「私がいまあなたに伝えることができるなかで一番大きなものはそれくらいですね」


「なるほど」


「ノスタルジストの目的は未来に続くことをやめさせることです、なにか心当たりはありませんか?」


 言われて思うのはただ一つだ。

 直近の歴史に刻まれる出来事なんて一つしかない。


「令和――新元号だ」


「新元号、それですね、私が覚えている最新の元号は平成です」


 たがいに軽くうなずいた。

 ノスタルジストは平成を続けさせようとしているのだ。

 そこでタイムパラドクス――未来の平成の人間である彼女がが平成を終わらせたときのことを聞きたくなる。

 が、また申し訳なさそうな顔をさせるのが忍びないのでどうしようか考えていると。


「タイムパラドクスについては気にしなくていいです、理由があります」


 静かにしかしはっきりと言い切った。

 その言葉に疑問を感じて聞き返した。


「なぜだ? 妙な言い方だが未来の平成の人げ――存在だろ?」


「私が知る最新の元号が平成なだけで、私は未来の平成で暮らしていたわけではありません」


 そこでやっと思い至る。


「令和――もしかしたらもっと先の元号かもしれないが、ともかく違う元号の世界で作られたが、平成までの知識しか入れられていない存在の可能性があるからか」


「はい、ノスタルジストもタイムパラドクスによる大きな影響は避けたい、まぁ介入する時点でかなりおかしな話ですが思い通りの現在へ過去を改変するには制限があるということだと思います」


 どこまでならよいのかなどの細かいことは聞かないほうがよさそうなのでうなずくだけにとどめる。


「なるほどな」


「実のところほんのつい先ほどこの世界――時間軸といいますか、ともかく到着したのはつい先ほどです」


「どれくらい? と聞いてもいいか?」


 彼女は数えるそぶりもなく断言した。


「あなたが襲われて撲殺されかかるその瞬間です」


「!! そんなに短いのか」


 驚き、そして感謝する。

 右も左もわからないどころか、到着したその瞬間に俺を助けると判断してくれたのだ。


「すまない」


 あらためて礼を注げると。

 どこか得意げな表情で彼女は返してきた。


「私はこういう時はなんていえばいいのか知っていますよ」


 どこか猫を思わせるような悪戯っぽい笑みを浮かべて。


「謝罪じゃなくてお礼の方が私は嬉しいですよ」


 思わず少し吹き出してしまう。

 だからその表情のまま思ったことを伝える。


「ありがとう」


「ええ、どういたしまして」


 彼女はベンチから腰を上げる。


「そろそお別れですね」


「え」


 おもわず声が漏れる。

 もう少し話していたいというのが本音だ。

 彼女は少しだけ困ったような表情をしている。


 おそらくこの当時の人間と話すことすら避けるべき状況だったのだろう。


「わかった」


「あの手のクリーチャーはとても珍しい存在ですが、とても危険です

まだはっきりとはしていないですが、あれらを撃破していかないといけない、だからお別れなのです」


「なら、元気で」


 だから努めて笑顔で、名残惜しさを必死に押しとどめて挨拶を返す。


「令和を頼む」


 微かだがはっきりうなずいて、戦闘時の装甲をまとい空へと飛んで行った。


 そこで思い出す。

 名前すら聞いていない。

 だから届けと思いながら叫ぶ。


「俺の名前は山上 奥谷 そっちの名前は?」


 が、その声は空に吸い込まれて、むなしい静寂だけを返してきた。


「あーあ、一目ぼれなのにな、名前すら聞けなかったなんてな」


 しかし、おれには明日がある。

 今度こそ家へと帰ることにした。


==〇=============================


 あぁ、急がないと


 肺が絞られるような痛みを感じるがそれでも走る。

 いや、走らなければならない(・・・・・・・・・)と思ってしまう。


 遅刻だ(・・・)


 まだ――もう、深夜(・・ ・・)だ。

 学校へと急がないと遅刻してしまう。


 視線の先には校門がある。

 そして校門の脇で鋼鉄製の板を振り回す男性を模した醜悪なナニモノか。

 直観でわかる、少し前に襲ってきた化け物と同じ種類の奴だ。


 このまま進んでは危険だ。


 遅刻だ(・・・)


 そう遅刻してしまうから、急がなければならない。


 校内放送が入っているのが聞こえる。

 その内容は――


「新元号は平成と閣議決定しました」


 そして、そこまで聞こえた瞬間、ついに校門についてしまった。


「いとtこちtkととちこここうきこちこくだ!!」


 頭に向かって鋼鉄の板――門扉を振り下ろされる。


 何かが押し割られるくぐもった音が聞こえた。

 そして喪失感。


 こぼれる


 はじける


「?!っや――みさん!!」


 うすくなる


 おちる


「ぁあっ!!」


 まぶし


 きえ――


「いそが―――」


――――


「ごめんなさい」


あやまらないで


==〇=============================


「っ!!」


 飛び起きて頭の周りを触ると何も異常はない。

 包帯の類を巻かれている様子すらない。

 そこで気づくのは、今俺がいる場所は預かってもらっているおじの居間のソファだということだ。


「な、にが」


「ようやく目が覚めたか」


 声の方へ向くと家主であるおじ――浦賀うらが 幸次こうじさんがいた。

 出勤時に着ていく作業服姿ということはもう朝の結構な時間のようだ。

 つけっぱなしのテレビでは急激に始まった世界的な不況について取り上げられている。


「もういい時間だぞ」


「え、あ!! 確かに」


 画面の隅の時計表示は遅刻かどうかの瀬戸際だ。

 だから荷物を探そうとして――


「かばんはそこ、脇の袋は弁当だ」


 指し示されたそこには確かに普段使っている鞄と弁当の包みがある。

 がなぜか二つだ。


「どこでもいいから、向こうで食え」


「あ、その」


 言葉少なく、こちらをじっと見つめるおじへの苦手意識はぬぐえない。

 両親が事故で亡くなった後、引きとってくれた相手なので、感謝するべき相手なのにだ。


「急げ」


 何かを言おうとする前に、はっきりと指示をされてしまい、ううやむやのまま指示された荷物を持って家をでた。


==〇=============================


 どこか上の空で午前の授業を受けて、人目につかない学校の隅で弁当を広げる。

 朝食用に用意してくれていた弁当は手を付けれずにいたため、弁当二つ置いて思案していると足音がする。


 驚き振り返ると、


「君か」


 夜に別れたはずの彼女が居た。

 この場所に合わせたのか女子用の制服を着ている。

 その様子はどこか所在なさげだ。


「その、なんといいますか」


「……」


 そこで盛大な腹の虫が聞こえる。

 音の出どころは――


「いや、これはその、このままでは私が腹ペコで出てきたみたいじゃないですか!! ちち違いますよ」


 その様子に苦笑し、安心する。

 別れた後の続きを意識して、弁当の片方を差し出し。


「二つは多いから手伝ってくれ」


 彼女は一瞬視線を泳がせる。

 もう一押しだと考えて――


「頼むよ」


「なるほど、なら仕方がないですね」


 口調とは裏腹に喜びを隠しきれない様子で男子高校生基準のため女子には少々分量が多い弁当を受け取り、手をあわせて口をつけ始めた。


 互いに話題の切り出し方をうかがうようにして静かな時間が過ぎる。

 校内放送で流行の音楽が流されているのが聞こえる。

 ほぼ同時に終える。彼女は食事終わりにもまた手を合わせている。


「その仕草って、未来でも通用するんだ」


「うーん、製作者がわざわざインプットしていたってことですね、みんながやっているかどうかはわからないですね」


「なるほど」


 もう少し昼休みの時間はあるが、このままでは一緒に食事をとっただけで終わってしまう。

 俺としては別にそれでもかまわない。

 いっそ餌付けを計画しようと算段をつけていると彼女がゆっくりと口を開く。


「夜は私の不手際ですみませんでした」


「どういうことだ?」


「学校の入り口のクリーチャーの話です」


 そこで確信する。


「あそこで俺は死んだ、のか?」


 彼女は少しだけ目を伏せ、はっきりとこちらの目を見据えて言い切ってきた。

 どのような言葉でも受け入れる覚悟を決めたかのように。


「はい、あそこで山上さんはこの時代の医学では治療ができない損傷を受けました」


 まず感じたのは、喜びだった。

 あの夜に名乗った名前はちゃんと彼女に届いていたのだ。


「でも俺は生きている、ということは君が治してくれたのか?」


「正確には違いますが、1か月もすれば完治です」


「へぇ、さすが未来の技術だな」


 しかし彼女は視線を少しだけそらした。

 何か隠し事がある様子だ。

 しかしそれを問いただすわけにはいかない。


「その、二度もありがとうな」


 その言葉に前回とは違い、決壊寸前の涙をためた目で


「ごめんなさい」


「え、それは一体――」





「新元号は平成と閣議決定されました」






「は?」


 校内放送ではっきりとそう放送された。

 しかし、周りからは動揺が一切出ていない。

 聞こえているのはどうやら俺と彼女だけだ。


「いかなきゃ」


 死地へと向かうかのような覚悟を込めた口調で告げてきた。

 背を向け空へ彼女はまた飛び上がる。


「な、また――」


「ごめんなさい」


 軌跡のように涙をこぼしながら去ってしまった。


「何が、あったんだよ」


 すると、聞きなれた明るい声が聞こえてきた。

 余韻を台無しにされたような気がして険を深めた表情でそっちを見る。


「いよぅ!! 山上!!」


「なんだよ、橘」


「見ろって、これすげーぞ」


 といって橘はスマホを見せてくる。

 その画面にはもうもうと煙を噴き上げる火山が写っている。

 しばらくすると今まさに火を噴いたときの映像が出る。

 どうやらニュースらしい。


「ありえない間隔での噴火だと」


「どこの?」


 背中に氷でも入れられたかのように寒気が走る。

 橘の能天気な声があっけなくその山の名前を口にした。


雲仙岳(・・・)


 そのあとの橘の言葉は耳に入ってこなかった。

 呆然としながら立ち尽くしていた。


==〇=============================


夢を見ている。


それは今までの化け物とは比べ物にならないほど危険な存在と貧弱な武装。


いや、武装とすらいえない装備で立ち回る彼女だ。


何度打ち据えられようともそれでも立ち上げる姿だ。


助けに行きたい。


そう強く願う。


==〇=============================


「行かなきゃ」


 そう呟いて目が覚めた。


 放課後すぐに帰り、幸次さんが帰ってくるまで待っているうちに寝てしまっていたらしい。

 立ち上がり、外に向かおうとして幸次さんと鉢合わせしてしまう。

 ゆっくりと問いかけてきた。


「もう遅い、出かけるのか?」


「ええ」


「明日からじゃだめなのか?」


 苦手なその目を見つめ返して、はっきりとうなずいた。


「今すぐ行きたい」


「そうか」


 とだけ言ってどいてくれた。


「その――」


「昨日、いや、今日のように遅いのはできるだけ避けろ」


「わかった」


 そう返して、外へと出た。


==〇=============================


 呼ばれている。

 と感じる方向に向けて歩く。

 途中ですぐに栄養になりそうなものを買い込んで向かう。


 と、そこは彼女と初めて会話をした公園だった。

 しかし昨日と違い、彼女は満身創痍そのものだった。


 焼け焦げ半ば以上炭化したワンピースのような衣装。

 ズタズタに破壊され、膝から下は両方とも存在していない。

 左腕は根元からもげたように欠落している。

 整っていた顔の左半分は火傷で崩れたようになっている。

 比較的無事な右目は白濁している。


 物理的に体が削り破壊されているが、それ以上に身をすぼめるようにして告げてくる。


「負けちゃい、ました」


「ああ、みたいだな」


 上着を脱いでかぶせる。

 外から隠してやるために。


「偉そうなこと言っていたのに、ですよ」


「ああ」


 空元気を精一杯ふり絞っている。


「なにしにきたんでしょう、ね」


「ああ」


 声に震えが混じってくる。


「もっともっと頑張らないときっといけないのに」


「ああ」


 もう隠しようがないほど泣きじゃくり始める。


「間に 合わなくて、しなせてしまって、頑張ってもがんばってもとどかなくて――」


 ひきつるような泣き声はとまらない。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」


 上着のまま彼女を抱きしめる。

 そうしなければならないと思ったからだ。


「でも、俺は二度も助けられた」


「それ、は――」


 そこで泣き声が一瞬とまる。

 だからたたみかける。


「こう言われた方がうれしいんだよな」


 精一杯の心を込めて伝える。


「ありがとう」


「ぅ」


「返事は?」


 まだ震えがあるが、それでももう泣き声ではない声でようやく返してくれた。


「どういたしまして」


 と、そこで案の定盛大な腹の虫が聞こえてきた。


「あぁ、もぅ!! なんで私はこうしまらないんでしょう」


 もう、大丈夫だ。

 そう確信できるので前のように離れたベンチに座らせた。

 彼女は右手で上着をうまいことはがして、まだ無事な場所だけをさらした。


「だろうと思って色々買ってきてる」


「あ、ありがとうございます!!」


 そう言って頭を下げてきた彼女は負けて打ちひしがれた様子は見て取れない。

 負けたがまた挑む、そう思わせる意志のようなものを感じさせる目をしている。

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