Apr/25/ 2019-8
間に合いました。
基地の片隅人目がほとんどない場所になす術なく落ちた。
落ち方の運がよかったようでウォーモンガーにいれられた以上の致命的な損傷を受けることはなかった。
「ふぅ、何とかなったかな」
ため息をつきながら空を見上げると、爆炎が晴れたところだ。
その中から体が半ば欠けているウォーモンガーが現れる。
左の手足は根元からもげており、えぐられたような左のわき腹からはどす黒い体液が漏れている。
顔も左側が焼け焦げており骨格フレームが見えている。
満身創痍のウォーモンガーは忌々しそうに顔をゆがめて第二射が来る前にさっさと撤退した。
「よし、これでいい」
だんだん視界が暗くなる。
同時に機能がシャットダウンしていくのがわかる。
生命維持ができる分の組織を確保できていない。
今までは命の残りかすみたいなものだった。
「……ここまでか」
ぽつりとつぶやく。
基地の方からは快哉が聞こえてくる。
対してボクは人気のない場所でひっそりと死に向かってゆく。
目はもう何も映しておらず真っ暗な中ただ一人で呟く。
「まぁ、ね――」
しかし仕方のない最後だろう。
「ボクは人を殺したんだから」
思い出すのはあさま山荘を模した事件を起こしたときに射殺したたくさんの人間の顔だ。
あの時は思考に制限がかかり、昭和の大きな事件を起こす事しか頭になかった。
でもそれは言い訳になんてなるわけがないのでただ思い出し、申し訳ないという思いが満ちていく。
そして厳密にはボクは人間ではなく、せいぜいが所属不明のテロリストあたりが順当なところだろう。
本来なら即死刑に処されてもおかしくない身分だったので、まだましな死に方だと思う。
「殺した人にすこしは顔向けできるかな?」
とつぶやくが、自嘲気味な思いが胸の内から湧いて否定する。
「何を今さら――殺した人間がよく言うよ」
もう空気の温度すら感じられず、弱々しく呼吸をしているだけだ。
そしてゆっくりと意識が落ちてゆく――
「ん?」
何かがすぐわきに降りてきた。
目も見えず、耳も聞こえないのになぜかそれがわかる。
「ああ、そうかドローンか」
いまだにボクはドローンとリンクしているので、ドローンの動きは把握できる。
降りてきたことが分かった理由は理解できた。
でもボクはドローンを動かしていない。
ドローンが脇に降りてきた理由がわからない。
と、ドローンから通信がされる。
その内容は――
「何か残すことがありますか?」
それで淡雪がボクの最期を看取るために操作したのだと考える。
「強いて言うならなんとか勝ったと二佐に伝えてほしいな」
「他には?」
もう体がピクリとも動かないので否定だけする。
「今までの後悔に対して今さら言っても遅いでしょ?」
だったら。
と続ける。
「成したことの報告だけが今残せることだから」
「なるほど――」
と伝えてきて。
続く提案をしてくる。
「生きてさらに働くつもりは?」
「ないね――」
そこで少し考える。
生きればもっと何かができるかもしれないという思いが湧いた。
けどやっぱり。
「うん、ないよ――ボクが撃ち殺した人も生きたいって願っていたはず、殺した存在が生きたいって願うのは厚かましいから」
「生きるのをあきらめると? 死ぬことで償えるとでも?」
苦笑して返す。
「生きたからね」
そこまで言って、今さら迷い始める。
死んで逃げるともいえるような終わりだと思えるからだ。
かといって生きるつもりも全くない。
「ただ、どうすればいいのか思い浮かばないってのもあるけどね、生きるのも死ぬのも殺した人に顔向けできない気がするんだよね」
「そうですか」
しかし相手はただそれだけうなづいた。
「死に方を選べるのはある意味で贅沢でしょう」
「うん」
その言葉がおもくのしかかる。
一方的に射殺された人よりかはボクは贅沢――恵まれている。
「そして、死に方につながるのは生き方ではないでしょうか?」
「ん?」
ボクの疑問に答えることなく相手は続ける。
「ブラックスミス、あなたが待ち受ける場所に突入した方々は死ぬために突入したのではなく――」
ゆっくりと、淡々と伝えてくる。
「彼らは自らが選んだ生き方を生き抜いたからではないでしょうか? その結果と責任をどうしてあなたが背負うんです?」
「それは……」
続く言葉はある意味で残酷だ。
「死者を理由にするのは、生き抜いた人への冒涜じゃないんですか?」
「……」
そこまで伝えてきてもう一度問いかけてくる。
「何か残すことはありますか?」
「ボクは――」
決意を込めて口を開いた。
明日も頑張ります。




