4月11日-2
すいません。
体調悪くてここまでです。
日が昇る前に何とか地元に帰ってくることができた。
淡雪の話では警察官三人を殺した化け物はもういないらしい。
その話をきいて急ぐことないと思い、自動操縦で寝ながら帰ってくることにした。
が、あんまり休めた気がしない。
ここで淡雪とは別れることにする。
「学校があるから、警察の方は淡雪に頼めるか?」
「わかりました、情報はリアルタイムで共有するので確認をお願いしますね」
「わかった、よろしく」
と言ってどうすればいいのか考えると、視界の端に淡雪の視界らしきものが差し込まれる。
他人から見た自分というのはかなり新鮮だ。
「なるほ――ぅ」
話しかけようとして、自分で聞こえる声と淡雪が聞いた声がかぶり少し気味が悪くなり言葉に詰まってしまう。
なので通信で話しかけることにする。
[話すのはちょっと無理だからこっちで頼む]
[わかりました、無理な人は本当に無理ですもんね]
[頼む]
笑みを浮かべてうなずいてくれた。
[ええ、任されました]
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着替えるところはさすがに視界と聴覚の共有は切られたが終わった後の格好は姿見でしっかり見せてもらえた。
淡いブラウンのフレアスカートと濃い緑のニットに薄手の白いコートをあわせている。
スカートの裾から見えるふくらはぎから下は黒い生地が見えているのでタイツか靴下だろう。
普段はほぼ制服だった(おそらく気に入っていたのだろう)のでどことなく大人びた格好をしているのは目新しさを感じる。
[いいね、似合ってる]
[ありがとうございます、とりあえず連続して起きてる怪事件の専門家程度の設定で行ってきます]
会話はそこまでに切り上げて自分の視界に戻る。
時間帯としては登校を行い始める時間だ。
幸次さんを見送り、早めに家を出る。
昨日は一切学校に出ていないのでさすがに今日くらいは早めにつかないと。
[針山さんの話では学校には警察から連絡したそうですが――]
[すごく嫌な予感がする……]
案の定登校する道すがら遠巻きに見られている気がする。
[……昨日殺人事件があって、警察に呼ばれたからな]
半ばあきらめつつ肩を落とす。
参考人、もしくは容疑者として呼ばれたといった噂が広まっているのだろう。
[感謝状でも贈ってもらえば話は別だろうが……ねだるのも気が引けるしなぁ]
[人のうわさも七十五日と言いますし、今は普通に過ごした方が良いかもしれないですね]
と、言っていると見覚えのある人影を見つける。
橘だ。
だが、その背中はいつもより元気がない。
「おはよう、橘」
「あ、おぅ、おはよう山上」
どうしたのだろうか?今日は勢いがない。
その目には後ろめたさと優越感のようなものが見られる。
橘にはあまり似合わない感情だ。
が、それはすぐに消え去ったが気になったので軽く探りを入れる。
「橘何かあったのか?」
「いや、なにも」
明らかにおかしい。
が、そこでそそくさと去って行ってしまう。
[噂とかあまり気にしない奴だったんだけどな]
[落ち着いたら話に行った方が良い気がしますね]
[確かにな]
いやな視線にさらされながらだが、高校に到着した。
周りの人間が一歩距離を取っているような気がする。
そのことに胸の内で軽く苦笑する。
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授業を受けながら、淡雪の見聞きしたことを盗み見ていることに今更だが少し罪悪感を感じる。
が、必要なことなんだと、ダメな考えで自分を納得させる。
ともかく淡雪の視線は若干視界が低いように感じるが、それ以外は特に変わったように感じることはない。
そうしてしばらくすると街の警察署に到着する。
受付に名前を告げると一瞬だが確かに鋭い視線を受けた。
[? なにかしてしまいましたかね?]
[いや? 来たばかりだろ? 今まで街で動いていたことがばれたとか?]
[クリーチャーを倒すときなどは迷彩していたのでわからないはずですが]
二人で首をひねっていても仕方がないので淡雪は案内について行くことにしたようだ。
「あなたが、専門家ねぇ」
と、案内された部屋に入ったら敵意に近いほど鋭い視線を向けながら、三十代の男性がとげのある言葉を向けられる。
が、そんな空気は一切無視して淡雪を握手を求めるために手を差し出しながら挨拶を行う。
「初めまして、淡路 雪です」
などと偽名をでっちあげる。
[いくらなんでも、あわじゆき、なんて偽名はどうかと思う]
「へ、変にひねるよりはいいと思います」
が、相手は気づかなかったように踵を返して。
「自己紹介より、さきにやっていただきたいことがあります、こっちへ」
なぜかとても心証が悪くなっている。
[しょんぼり]
[いくら何でもこれはおかしいな――あ、死んだ岩田さんの仲間だって思われてるのかも]
[確かにそうかもしれないですね……外から来た人に仲間を連れていかれて、殺されたわけですから]
通信からは明らかに元気が減ったことがわかる。
しかし、気を持ち直して歩いていく。
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通されたのは寒々とした照明がつけられた死体安置室だった。
無言である棚を開けて、一人の遺体がスライド式のラックに乗せられて出てきた。
淡雪は無意識だと思うが手を合わせる。
その様子に連れてきた人は少しだけ雰囲気が和らぐがすぐに元の険しい様子になる。
それをストレッチャーにのせて強い光を発するライトの元で死体袋の口が開けられる。
傷からすると頭に銃弾を受けたドライバーだ。
「どう説明つけますか? 脳を銃弾で破壊された人間が中毒死したこのことの説明をお願いします」
冷たい口調でそう告げてきた。
明日も頑張ります。