卯月廿四-4
間に合いました。
「さて、どうしようかしら?」
資料を山積みしたデスクで考え込む。
場所は蛍光灯に照らされた狭めの一室だ。
仮の仕事部屋なので物はそれぐらいしか置かれていない。
状況としてはかなりまずい。
自信をもって在日米軍に乗り込んだらしてやられて、明日には組織としての頭がなくなってしまう。
読まれているというより――
「私が読めていないということでしょうね」
声に出したらストンと腑に落ちた。
相手はノスタルジストもそうだが平成の怪物も別勢力なのだ。
それを一枚岩の組織だと勘違いしていた。
むしろ敵対していた両者を一緒に考えていたのが問題だったのだ。
すると部屋のドアがノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
声の主はブラックスミスだった。
「今は仕事中じゃないから砕けて大丈夫よ」
「あ、そうなんだ」
と外見年齢らしい砕けた話し方になる。
片手にはいまだ湯気の立つコーヒーが乗った盆を持っている。
サーブついでに護衛のつもりだろうか?
「明日以降の事に考えていたのだけれど、率直な意見が聞きたいの」
「よど号ハイジャック事件でリーパーを確保しましたけど、これは読まれていましたか?」
ブラックスミスはじっと考え込み、ようやく口を開く。
「多分、読めていなかったと思う」
指を一本立てて――
「自首するつもりと言っていたから」
「なるほど、それは少し自信がつきました」
完全に手の平で踊らせていなかったというのは心強い材料だ。
それすらそう思わされただけという可能性はゼロではないが、そこまで疑ったら何もできない。
「さて、一番大切なことは聞けたから頭の中を整理するの手伝ってくれる?」
「もちろん」
元気のいい返事を聞きながら、濃いコーヒーを一口飲む。
「状況はめちゃくちゃで、私たち日本、在日米軍、ノスタルジスト、平成の怪物と四つ巴に近い状況になっているの」
「そう、それぞれの思惑があって動いています」
さて。
と前置きをして一つの問いかけを行う。
「私たちがあることをすれば、その他の二つの勢力が真正面から激突せざるを得なくなります、何をするのでしょう?」
「……わからない」
多少は考えたのでしょうがあっさりあげた白旗に苦笑する。
「起きるであろう平成の事件や災害を無視することです」
「え?」
呆けたような顔をするので畳みかけるようにして話す。
「そうするとノスタルジストはほぼ確実に平成の怪物を止めにいかないといけないわけです」
「でもそれって――」
ブラックスミスが言葉に詰まっている理由もわかります。
「何百、何千人と出る犠牲者を見捨てることになります」
「いやいや、ダメでしょそれ」
慌てて否定されたのでうなずく。
「ええ、なのでこれは最初から却下です、それでも手としてあるのは確認しておかないと」
正直なところどこか遠くで勝手に戦ってほしいという気持ちがある。
日本は完全に巻き込まれた側だ。
と、そんな意味のない思考は捨てて話し続ける。
「とりあえずアメリカ軍とは物別れに終わったのですが、ノスタルジスト側の仕込みが発動しただけで影響を受けた人員を排除すれば協力できるはずなんですよね」
というよりも。
と声のトーンを変えつつ話す。
「他の二勢力が本当に敵にしかならないので協力関係を結べそうなのがそこだけなんですよね」
「なるほど」
ブラックスミスは足音を立てずにドアの前に移動して、ノブにゆっくり手をあてて。
「そこんとこどうかな!! アメリカの人!!」
とドアを急に開けて前に立っていた人間を迎える。
それは――
「ああ、休憩時間に合ったあの時の」
「そう、ちょっと時間をもらえるかい?」
とどこか胡散臭い口調で話しかけてきた。
明日も頑張ります。




