4月24日-7
間に合いました。
針山さんと青木さんの二人が空輸される準備をする間、買ってきた花束を眺める。
花屋に入って何となく気になった花をメインにまとめてもらった。
それなりに値段も張ったが渡すのが楽しみな出来だった。
青に近い紫を中心にしたが、お店の人にお任せしたら白や黄色など色彩豊かな花束を作ってくれた。
「それにしても草花だけじゃなくて、木に咲く花も売られているんだな」
それが目を引いてそれを花束に入れてもらった。
その後、自嘲気味に笑う。
「結局渡せないだろうが」
こんなことになっては渡す暇なんて作れないだろう。
とりあえず使われていないバケツを探してきてそこに立てる。
その直前、花束を包んでいる包装紙をどうしようか迷うが、せっかく整えられた包装紙を破って捨てるのも忍びないので丸ごと立てた。
「……」
水につけられた包装紙は水を吸って少しふやけるが、それでも形は保っている。
すると二人の準備が終わったのか戻ってきた。
スーツの上にごつい潜水服のようなものを着ている。
「これやっぱりかなり動きづらいな」
と不満げに針山さんがぼやく。
それに苦笑気味で青木さんがなだめる。
「まぁ、全速力で向かうと戦闘機クラスの加速を受けるからこれ着ないと死ぬって淡雪ちゃん言ってたでしょ、基地から輸送機じゃ遅いし」
「知ってるが、何度もこの移動はやりたくないな」
と言って二人が目を向けるのは棺桶のような入れ物だ。
何度かあれで二人を運んだが、中で体をがっちり固定して運ぶ。
頑丈さ優先なので外を見ることもできず閉所恐怖症なら絶対不可能な移動法だ。
「はぁ」
と二人は深いため息をついた。
そして移動中に吐いたりしないようにかなり強い酔い止めを飲む。
効果が始まるまで周りを見ていた針山さんがバケツに立てた花束に気付く。
「ん? それは、早速買ってきたのか?」
「あ、はい、善は急げって言いますし」
そこで口の端を上げる。
「マメなのはいい事だ、長く関係を維持するコツは思ったことはちゃんと伝えることだな」
そんなアドバイスをしてくるのに、少し失礼かもしれないが違和感を持つ。
なので勇気をもって――
「ところで針山警部はそういう経験ってあるの?」
「意外か?」
そこで素直に青木さんは頷いた。
「意外だねぇ」
「まぁ、昔の話だよ」
と少しだけ遠い目で眺めている。
「昔、俺にはまぁいい雰囲気の奴がいてなぁ」
恥ずかしそうに頬をかきながら話し続ける。
「署に出入りする観葉植物の業者の娘で、下っ端だった俺がちょくちょく人手に駆り出されるうちにな」
目線は花束をじっと見ている。
「それで何とかそれ以上の接点作ろうといろいろ勉強してな、こんな顔だからギャップですぐに覚えてもらえたな」
そこで何かを振り洗うように首を振って話を切り上げた。
それ以上は踏み込んではいけないと感じて相槌も打てなかった。
針山さんはそのまま笑みを浮かべて花束の白いある花をしめして。
その花は大部分がみずみずしい緑だがまばらに見える白がとても印象的だ。
「それの花――ヒナギクだな、それを選んだのは山上が選んだのか?」
「いいえ、大体お任せにしましたけど」
そこで濃い笑みを浮かべる。
「くく、なるほどな、店員も察しが良い部類みたいだな」
「え?」
「そりゃナズナだ、花言葉はあなたにすべてをささげます、だったかな? それを選んだのならきざだと思ってな」
そのまま次は黄色に近いオレンジの花を示す。
「で、そっちの花はプリムラだったかな? その花言葉は――」
たっぷり貯めて口を開く。
「青春の恋、だ」
「な!?」
思い返せば店員が何やらこちらをからかうような表情をしていたことを思い出す。
「花屋に飛び込んで、女に贈る花束を作ってほしいとか頼んだだろ?」
素直にうなずいた。
「まぁ、察するわな」
淡雪についてちょくちょく聞き出してきたのもそのせいか。
と思い、今更ながらに崩れ落ちる。
「ま、相手も悪気はなかったろうから許すんだな」
針山さんは楽しそうに笑っている。
そこであることを思う。
俺が選んだ花についてだ。
枝に咲いた濃い赤紫の花だ。
「選んだ花はあの赤紫の花ですね」
「あん? ハナズオウか……」
そこで針山さんは少し考えて。
「花言葉は目覚めなどだな」
「ありがとうございます」
花言葉を言う前に少し言葉に詰まっていた気がする。
まるで言葉を選ぶかのように。
がその疑問を口にする前に――
「そろそろ薬が効き始めるから早く東京にお願いするよー」
と青木さんが話してきたのでその疑問は消し飛んだ。
「おぅ、そんな時間だな、頼むぞ山上」
と二人は棺桶のような入れ物に入って、中から金属音が聞こえる。
「じゃ、急ぎます!!」
と宣言して入れ物につけられた接続箇所と強化外骨格を接続して空に飛びあがった。
目指すは日本の中枢、東京だ。
明日も頑張ります。




