卯月廿四日-3
間に合いました。
「ぐぁっ!!」
という太い声がしてバタバタと人が倒れる音がする。
どうやら賭けに勝ったようだ。
同時に少女らしい高い明るい声が聞こえる。
「見つけたよ」
「ブラックスミスですね、とどめは刺していませんね?」
周りが全く見えないがそれでも呼びかける。
「必要だった?」
「いいえ、そのままでお願いします」
襲撃を仕掛けてきたとはいえ、おそらくノスタルジストが仕組んだことだ。
殺すのは忍びない。
「それにしてもびっくりしたよ、基地が目立たないようにだけどあわただしくなって、穂高二佐に連絡つかないし」
そしてそのまま何気なく言った。
「だから指揮官を探したんだ」
賭けはそれだ。
私が逃げ出したら間違いなく探し始めるだろう。
そうしたらどれだけ巧妙に隠そうとしても二人なら何かが起きたことを察して、連絡を取ろうとするはずだ。
だが、つながらなかったら?
二人とも現代の人間とは比べ物ならないレベルの知覚能力をもち、ハッキングによって監視カメラもジャックできる。
私に接触に来ることはほぼ確実で、土地勘のあるアメリカ軍の兵士より先にたどり着いてくれるかの賭けだった。
「とにかくこの駐屯地から脱出しましょう」
「了解」
と気軽に、しかしはっきりと返答して先導するように先に走り始めた。
その道すがらブラックスミスが話しかけてくる。
「それでどうして襲われているの?」
「口調はもう少し考えなさいね、一応とはいえあなたの上官ですよ」
一拍して、ブラックスミスが話しかけてくる。
「了解、穂高二佐、なぜ襲撃を受けているのですか?」
いきなり口調が変わったので少し面食らうが、説明を行う。
「ウォーターゲート事件というのに心当たりは?」
「いいえ、全くありません」
そう話しながらブラックスミスは構えた拳銃を発砲して、飛んでくる弾を打ち落としたり、相手を昏倒させている。
「始まりは昭和四十七年、終わりは四十九年の事件なんですが、簡単にいうとアメリカ大統領が辞任まで追い込まれた政治的スキャンダルです」
「一応時期的にかぶっていますが……」
声の調子からすると不思議そうだ。
だが次の言葉を聞けば理解するはずだ。
「ウォーターゲート事件で大きな役割を果たす人物の名前がディープスロートです」
「え!?」
声からするとかなり驚いているらしい。
だからというわけではないがそのまま説明を続ける。
「ディープスロートを名乗る人物の内部告発により、捜査の手がアメリカの政治の中枢にまで伸ばされました」
「なるほど」
説明をつづける。
「それでおそらく私たちは追われる者にさせられていますね、ディープスロートから情報を受け取った者が追い詰める者ですので」
「元仲間が申し訳ない」
気を抜いていたのは確かなので耳が痛い。
しかし頭を切り替えて、とにかくここを脱出しなければならない。
と、向かう先にシャッターが下ろされている。
「せーの!!」
という掛け声とともにブラックスミスが何かを発射する。
それはシャッターに張り付くとまぶしい光を放って人一人が通り抜けられる穴をくりぬいた。
そのまま外に飛び出ると――
「いくら何でも本気すぎるでしょ」
とあきれ気味言う。
重厚な装甲と巨大な砲を持つ陸戦の王者。
戦車がそこに待ち構えていた。
人間大の存在なんて主砲を使う必要すらない。
備え付けられている機関銃か、アクセルをふんではねたら終わる。
ブラックスミスは急いで対戦車兵器を持ち出そうとするが、それよりも引き金を引かれる方が早い。
今度こそ終わった。
「よいしょ!!」
そんなかるい掛け声とともに戦車がひっくり返された。
「え?」
と思っているとひっくり返した物――銀色に輝く柱が立っている。
上空に淡雪ちゃんが飛んでいる。
「逃げましょう」
うなずいて、ブラックスミスに視線を向けるとうなずいた。
「お願い」
「了解」
と私を横抱きにして空に飛びあがって、全速力で突き進んでいった。
明日も頑張ります。




