卯月廿四日-1
間に合いました。
「ふぅ……」
腰を落ち着けてようやく休めると思い、病院ロビーにあるような長椅子に腰を下ろす。
まだ湯気が出ているコーヒーを片手にそう思う。
いろんな方面からせっつかれ、腰を落ち着けた休憩もなかなか取れなかった。
経験的にそろそろ仮眠をとらないと限界が来る頃だろう。
そう思って優先する仕事を考えていると隣に腰を掛けてきた人間がいる。
服装からするとアメリカ軍の人間だ。
「ヨォ!! ホダカ、順調そうだな」
かなり馴れ馴れしく話しかけてきたが初対面だ。
なかり顔の彫りが深いので一度見たら忘れない人相なので本当に初見の人間だ。
「あなたは?」
「そっちがノスタルジストって呼んでる連中と交渉していた人間だよ」
そこでようやく思い当たる。
私たちに横からとられたと思っているのだ。
「……初めまして」
妙な言質を取られないように慎重に言葉を選び発言する。
「他には?」
「初対面ですし、他には何も」
こちらをじっと見る目には、いら立ちに近い感情が込められている。
そしてさっきまで行っていた淡雪ちゃんたち二人を含めた会議に居なかった。
つまり外された人間だ。
表情に出ないように考える。
簡単に言えば恩を売るか売らないかだ。
正直なところ非常に馴れ馴れしく面倒ごとの匂いしかしないが――
「なんだ?」
歳はまだ若手と言っていい年代だ。
もう外されたとはいえ、重要なプロジェクトであったはずのノスタルジスト達の担当に噛んでいた。
そしてどういう手段かは分からないが私たちがこの時間にこの基地を訪れて、責任者である私の名前まで調べ上げた。
はっきり言えば優秀だ。
あきらめきれずにルール無用で直で接触してきた勢いも評価は分かれるけど私は嫌いではない。
「こちらへは何をしに?」
「……」
相手は何事か考えこんでいる。
私もだが相手も時間がない。
ほかの仕事もあるだろうにそれから抜け出してきた。
もしくは謹慎中のはずなのに接触してきた。
どちらの場合でも処分が下されるだろう。
そこで覚悟を決めたのか口を開く。
「俺をチームに入れろ」
「メリットは?」
ここで、
先に研究を進めていた。
というのは交渉材料にならない。
なぜなら以前の研究は裏切る前提だったので、でたらめだった可能性がある。
そのことを踏まえて待っていると――
「……俺は絶対にビッグになってやる、そんな俺に恩が売れるぞ」
「ふふ」
思わず笑いが漏れてしまう。
あまりに予想外の方向から出た言葉なので笑ってしまった。
それを了承に近いと思ったのか嬉しそうだ。
が、違う――
「それだけなら、私はその話を聞かなかったことにするだけです」
「は?」
虚を突かれたようで相手から語気が強めの言葉が出た。
「それはごく普通の事でしょう?」
こちらはボランティアではない。
感謝が欲しくてやっているわけはないのだ。
優秀で確かに未来性はあるだろうが、ここで絡めなければほぼキャリアは終わる。
それにこのままだと間違いなく向こうは処分が下り、今度こそ本格的に終わるだろう。
思い切りや行動力があるのは良い事だが、自分自身が置かれた状況を読まずに行動して自分の価値を見誤るのは非常に危うい。
こちらから手を伸ばす意味は薄い。
さっきの私の発言の真意すら気づけないならここまでだ。
「くっ……」
そこで唸り。
何事か考えこむ。
「私はこのコーヒーを飲み終わるまでが休憩時間ですね、結論はお早めに」
と言ってカップを煽る。
それを見た相手は――
「また来る」
何事かに気付いたのかそれだけ残して去って行った。
それを目線だけで見送った。
すると、違う方向から会議に出ていたアメリカ軍側の方が来て。
「先ほどまで誰かと話していたようですが?」
「いいえ、誰とも話していませんよ」
誰にもさっきまでの話は言わないから、交渉材料を見つけてくること。
もしくは正式に申し込むか。
ほかの道もあるかもしれないが、まだそっちに掛けるほどの価値は見いだせていないのだ。
「ま、恨まれるかもしれないですがね」
「なにがですかな?」
「いいえ、こちらの話です」
もうひと頑張りするときなので、重い腰を上げて仕事の続きにかかることにした。
明日も頑張ります。




